「ちょっとー、まりもー? いるんでしょー。開けなさいーい」

 うう、うるさいなぁ。折角の休日くらいゆっくりさせてよ……

 もぞもぞ布団にもぐりこむ。

 今日は寒いしー……何より昨日また男に……うううー……

「仕方ないわね……あんたたち、やっちゃいなさい」

「ヘイ! アネさん!」

 ガンガンガンとドアが凄い音をたてる。

 うううー。夕呼何するつもりよー。

 今日はうじうじ一人寂しく寝てすごすんだから。

 放っておいてよー。

 体勢を変えて亀みたいに身体を丸める。

 あ、枕がないわ。

 ひょっと手を伸ばして枕を掴む。

 お腹の辺りに枕を置いていじけモードに移行する。

 ばかぁん! と何か玄関で凄い音がしたけどあえて無視。

 夕呼が来ても知らない!

 ドスドスと重々しい足音がこっちに近づいてくる。

 ベッドの脇で足音が止まると……

 次の瞬間ジャポンットで買った羽毛布団っぽい綿布団が引っぺがされた。

 くぅぅ、でも負けない。今日は一日いじけモードって決めたんだから!

 そんな私のわきに、誰かの手が無造作に突っ込まれた。

「被疑者確h」
「イーーーーーやーーーーーーぁーーーーーーーー!! 拉致される! 汚される! 売り飛ばされるーーーーーーー!!」



 ばたばたと空中であらん限りの悲鳴をあげてばたばたともがく私。

 黒服の顔といわず身体といわず○○○といわず

 蹴る!

 蹴る!!

 蹴る!!!

 気分は昔、佐竹君(高校時代の青春)と初めて見に行った“萌えよどらごん! 冥土桔鎖の死闘!”に出てきたジャッキー・ニャンも真っ青。(だと思う)

 ああ、その内香港からオファー来るんじゃないかしら? っていう位今日の私の足技は輝いてた。(はず)

 なんだか愛しさと切なさと心強さが絶妙にマッチして、私の中の何かが目覚めた気がした。

 次の瞬間私の目がきらめくと同時に学生時代愛読していた書物の技、アレを再現する!

「はぁぁぁぁ、か・め・は・め……ナッコォーーーー!!」 

 私の手が緑色の輝きに包まれ、その拳速は音を、ううん、光を越える!!

 ぐしゃっと黒服の顔が歪んで、そのまま窓を突き破って星になる。

「な……伝説のかめはめナッコォーを使うとは……貴様、何者だ!」

 黒服が私に問いかける。

 仕方ないわね。名乗ってあげる。

 ふぁさっと髪をなびかせ、流し目で私は高らかに言う。

「まりも。神宮司まりもよ。わたしの寝込みを襲った事、地獄で後悔しなさい」

「ち、ちくしょう……ただでやられてたまるか! うおおおお」

「ふ……貴方はもう、死んでいるわ」

「な、なにぃ……う、うぇンデバッ」

 ぼしゅーと蒸気を放って倒れる黒服。

 私はそんな彼を見下して、ぽつりと呟く。

「ナント、ビックリ真拳奥義、峰打ちよ。三十分位は死なないわ」

 むくり、と起き上がって黒服? っぽい影は逃げていった。

 あっけないわ。所詮狂犬に勝つ牙を持たぬ……

「強くて美しいまりもさーーーん! ジョニーズJrで今人気絶頂のタッキューことタキュザワと付き合ってくださーい!」

「い、いけないわ。私にはロバート・デ・ネロっていう心に決めた人が」

 とか言いつつ私はタッキューと熱い抱擁を交わしてそのままデュジョニーランドゥに……



「そーぉだったらいーいのーになー……」

 ぷらーんと二人の黒服に脇をしっかりとロックされ持ち上げられた私の抵抗も虚しく居間に連行されている。

 私が何したのよぉ〜……

 ちょっと立て付けの悪いドアが開けられると、そこには……

「あら、やっと起きたの?」

 なんでか知らないけどおフランスな部屋に、いつもどおりの夕呼がいて、その足元でパンツ一丁のムキムキさんがひざまづいている。

 言葉で表すのは簡単だけど……うん。

 異常空間にようこそっ!

 っていう感じ。

「夕呼……? これなに?」

「そうね。フォンテーヌブロー宮殿のレプリカ?」

 そうじゃなくて。

「ちなみに彼は私の奴隷のアドン君。アンタを連れてきてくれたのはAとBね」

 いや、そうでもなくて。

「明日から私、出張でしょ? だからちょっとまりもに預かってほしいモノがあるのよ」

「え? 私の意向は無視?」

 パンパンと手を叩くと、アドン君はパンツから何やら紙っぽいのを取り出す。

 あれ……は

「今年は何で行こうかしら? ニャコルル……は露出が少ないわね。去年人気だったコトヌって言うのもいいわね……ヒップラインが」

 ぞぞぞぞぞっと背筋を薄ら寒いモノが駆け抜ける。

 あれは……あの時の写真!

「ひ、酷い……脅迫するつもり……!?」

「さぁ? 私はまりもが協力してくれさえすればいいのよ」 

 こうなってしまうと……私に拒否権は、なかった。

 

「わかった? 日向においておいてあげればそれでいいから。あ、ただ置くときには下着とか、そこらへんちゃんとしまってからにしなさいね」

 謎の言葉と、ソレを残して夕呼は颯爽と去っていった。

 居間も、ドアもいつの間にか元通り……っていうよりちょっと立派になってるし。  

 とりあえず私は言われたとおり、日当たりのいいテレビの上にそれを置いた。

 じーーーっとそれを見つめる。

 時折こぽんと水面近くまで昇ったかと思うと、また沈む。

 緑色で、毛むくじゃらなソレ。

 ――有体に言うとまりも。

 あ、私じゃなくって。阿寒湖とかにいる(ある?)アレ。

 夕呼が渡してきたんだから……何かあるんだと思うんだけど。

 いきなり爆発とかは無さそう?

 まぁ、これぐらいなら……いいかな。

 あ、そうだ。洗濯物片付けなきゃ……

 って、あれ?

 ぱんつが……ない。


 い、いーーーーやーーーーーぁーーーーーー!!


 なんで!? どうして!? 数少ない勝負モノなのに!? も、もしかして泥棒!?

 そ、そんな! 高かったのに! いや、そんなことより!

 あ、あんなの誰かに見られた日には……恥死(はずかしし)しちゃう!

 一体、一体どこに――

 部屋の中をぐるっと見回して、テレビの上の、例のアレの上に、目的のソレはあった。

「よ……よかった……盗人かと思ったわ……」

 とたとたとそれに近づいて、ひょいと持ち上げると

 それの“目”と私の目とが合った。

 スケベオヤジみたいな顔をしていた“それ”はハッと我に返ったようにキリッとした顔になる。

『お嬢さん。可愛い顔して紐パンたぁ、やるじゃねぇか。気に入ったぜ』

 喋った。



 あ、そうか。

 幻聴と幻覚ね。

 ふぅ、疲れてるのかしら。

『安心しねぇ。紐パンだっていうのはお嬢さんと俺っちの秘密にしとくからヨ』

 ぴた、と足が止まる。

『あー、それとだな。ついでといっちゃ悪いんだが、なんか写真集を下にしいてくんねぇかい? なに、こう出るトコ出てて可愛ければ贅沢は言わね……お、おい。いきなりたぁちと大胆だなお嬢さん』

 すっと持ち上げて、ガラガラと窓を開ける。

『お、オイオイ。いきなり外でかい? フフフ……可愛い子猫ちゃんめ。もう浮いたり沈んだり出来なくなるくらい可愛がって……あ、あれ? ちょっと、何を』

 それを下に置いて、ガラガラとまた窓を閉める。

『ちょ、お嬢さん! 待って! ここ日があたんない! 酸素作れないって! お嬢さん! おじょうさーーーーん!!』

 徐にテレビをオン。ついでに音量を上げる(近所迷惑にならないくらいにね)

 ソファに身体を預けて携帯を取り出す。

 電話帳の名前検索でユウと入れて検索。

 一番上にきた夕呼で決定&通話キー。

 ぷるるるる、ぷるるるる。

『――こちらはアウお留守番サービスです』

 即会話終了ボタン。

 ゆ、夕呼。初めからこのつもりで押し付けたのね。



 日が沈んで、やっとベランダが静かになった。

 ガラガラと窓を開け、それに目をやると……

『お、お嬢さ……も、我慢、無理……』

 げっそり? したそれがビンの底に沈んでいた。







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