『マンバ4! 後ろに付かれているぞ!』
トップレスの女性を象ったエンブレムの描かれたイーグルを二機の吹雪が追い立てる。
マンバ4も必死に二機を引き剥がそうとするが、その二機の錬度に悲鳴をあげた。
『あー! 駄目! 無理!! ちっくしょー、助けてプレイメイツ!』
次の瞬間、被弾を警告するアラートがなり、HQから通信が入った。
『マンバ4、撃墜』
この段階で、5機いたマンバ隊は既に2機になってしまっている。
性格に難があっても、各々中々の実力を持つマンバ隊をここまで追い込んでいるというのは賞賛できるだろう。
「参ったねこりゃぁ。エリー、そっちからなんとかかぶせてくれ」
『了解。追跡して追い込んで。上手く頭を押さえて見せるから殲滅の方お願い』
たすきの様な青いラインの入ったイーグルが脇にそれる。
狙撃手が前にでるなんてとんでもない事だが、まぁ今回ばかりは仕方がないか。
元々今回の演習では各々が普段就いているポジションではない所で戦っているわけだからな。
多少は仕方がないのかもしれん。
俺は相棒と共に二機の吹雪の追撃を開始した。
驚いたね。
まさかここまで錬度が高いかよ。
「ちょこまかちょこまか飛び回りやがって……バッタか!? このやろう!!」
支援ライフルで上手いこと二機を追い立てる。
あくまでも、俺の今の仕事は撃墜ではなく追い立てる事、だ。
反撃を許さず、逃亡も許さない。
でも、まぁ、アレだ。こうもチョコマカ動き回れると、正直しんどい。
「うお!?」
突如隊長機が突撃銃を担ぐようにして反撃をしてきた!
何て野郎だ、まったく!
「やめれぇ〜〜! あたっひゃう〜! あたっひゃうろぉ〜〜〜!!」
くねくねと相棒を内股で走らせる。
途端明らかに動揺する片割れ。
まぁ、無理もない。戦術機に内股で走るなんて機能はないからな。
でもな、余所見してっと……
数発の銃声と同時に動揺した吹雪が真っ赤に染まる。
同時に隊長機が飛び出してきたエリー機に攻撃を仕掛けた。
壮絶な撃ち合いになる、前に。
隊長機のコクピット部分が真っ赤に染まった。
「がら空きだってーの。悪いね」
演習終了。
――結果は俺達の辛勝だった。
**********************
「あ゛ーったく。疲れたぞ〜〜」
強化装備を脱ぎ、シャワーを浴びて元の軍服に戻ると、俺は先の演習の結果を見るためにハンガーまで来ていた。
「お疲れケヴィン」
苦笑しながらエリーがドリンクのパックを手渡してくれた。
「お〜。そっちもお疲れ。 ――全く。仲間がしょぼいとお互い苦労するな」
殺気が高速で迫り来る。
俺が回避行動を取ると先程まで俺のいた所に高速で何かが降り立った。
あそこにいたら……俺は……
「あたしはしょぼくないッ! お前があたしを迎撃後衛なんかにするから悪いんだッ! あたしは突撃前衛じゃなきゃやらないって言ったろ!」
「ええぃ! あのおっさんが今回はポジションを変えていくって言ってたんでもしょが! 俺はそれに従って編成を考えピギャー!!」
駄目だ。こいつに言葉は通用せん!
上半身を∞の起動に動かしながら高速で拳が俺の身体に叩き込まれる。
「……これよりマンバ隊の演習評価を発表する。各員集合」
珍しくさっと集合する面々。
そして俺を見て一瞬止まるおっさん。
「……ケヴィン大尉。指揮の方ご苦労だった」
……おっさんなりに色々察してくれたらしい。
っていうか今だけはあんたを尊敬できる。
よくこんな連中を纏められたな。
オッサンは各々に注意点と、それに対する対応策を一言二言話す。
はやく終わらんかなぁと思っていた俺の鼻にふわ、と風に乗って柔らかそうな香り。
思わずそちらを見てしまう。
「伊隅隊、全員集合しました。ゴヤスレイ少佐」
……うん。すごい、なんだ。イイ女達だ。
きっとした目。漂う色気。そして色とりどりの乳。
一歩前に出た娘っ子の口ぶりから、あの隊長機の衛士らしい事が窺える。
「最前線で戦っている面子はどうだった? 今回は多少配置換えがあった分、動きがちぐはぐだったかも知れんが」
「慣れないポジションでありながらあそこまで立ち回れるのは、さすがだと思います」
表情を変えずに淡々と伊隅は言う。
ちっと含みがある言い方だな、おい。
「できれば今度は……ゴヤスレイ少佐を交えた本気の毒蛇と戦ってみたいですね」
不敵に笑う伊隅。
いかん。こんな事をされてあの災害女が黙ってるわけ……あれ?
意外にもおとなしい。
興味がないのか隣のエディを肘で攻撃している。
「……俺が加わって、配置を元に戻しては勝負にならなくなってしまうからな。やりたいのならばもう少し腕を磨け」
オッサンバッサリいくねぇ。
皮肉とかでなく、オッサンにしてみればソレが本音なんだろう。
ヴィーはそれを感じ取ったから何も言わないのか?
「伊隅隊も俺達と同じく、香月副指令の直属部隊となる。今後は行動を共にすることもあるだろう。各々相互の理解を深めるように。以上、解散」
うわ、投げっぱなしかよ。
何はともあれ、少し剣呑な空気の中俺たちと伊隅隊の初顔合わせが終わった。
***************
「なぁ……俺さ。君とは始めてって言う気がしないんだ。その黒い髪、深い色を湛えた瞳……まさに君こそ俺の太陽! ジュッティーーーーンム!!」
黒髪の小柄な女性士官に飛びつくエディ。
にっこりと微笑む彼女と獣の目をしたエディの間に、背の高い、コケティッシュな女性が割り込む。
「はい。そこまで。梼子は私のものなので触らないでください」
豊満なバストに顔を埋めそうになったエディは、コケティッシュな彼女に腕を取られ、瞬く間に組み敷かれていた。
よ、弱ぇ……さすが自称インドア派。
「あ、なんか女王様に罵られても俺イケル口かもわからんね……」
いや、少女のように頬を赤らめるな。
本気で気持ち悪いぞエディ。
「ははは……こんな奴だけど戦闘では頼りになるよ。俺はアーノルド・ランデルマン。さっきはすぐに落とされてしまったんだけどね……それで、今組み敷かれ
てるのはエディ・ゲレーリオっていうんだ。よろしく」
ごく自然な感じで梼子と握手を交わすアーノルド。
殆ど女性に対していかがわしい思いを抱かないからか、意外にも女性受けは悪くない。
「はじめましてアーノルドさん。私は風間梼子と申します。そちらは宗像美冴さんです」
ミサエはどうも。と挑発的な笑みを浮かべる。
まぁ、正直この二人は美女だ。エディが飛びつかなかったら俺が行ってたかもしれん。
そんな四人のやり取りから、こんどは向こうに目を向ける。
中性的な顔立ちの女性と、見るからに儚げな女性二人がヴィー、エリーコンビとなにやら楽しげに話しているのが見えた。
いいなぁ……ヴィーに殴られるの覚悟であそこに混ざりたい……でもなければ
「……」「……」「……」「……」
この沈黙から逃がしてくれ。頼む。
俺の正面にはポニーテールの女と、チラチラ俺たちの顔を見回すちょっと儚げな女の子。
そして、伊隅の三人が座っている。
オッサンを睨みつける伊隅と何故か俺を睨みつけるポニー娘。
「あ、あの……私何か飲み物持ってきま「オレンジジュースを」「栄養ドリンクお願い」「いつもので」……あ、あぁう」
こりゃ、しょうがない。
「あーっと、俺も手伝うわ」
俺ものんびり席を立つ。が、ポニ娘は相変わらず俺を睨みつけているようだ。
「ふむ。ゴヤスレイ少佐ともあろうお方が、オレンジジュースとは……ああ、申し訳ありません。少し微笑ましくて」
「……今の俺には味覚がない。幼い頃、はじめて飲んだこれの味位しか覚えていないのでな」
ぎゃー、より空気を重くしてどうすんだあんたは!!
飲み物を持ってふらふらしてる女の子から瓶入りの牛乳と栄養ドリンクをひょいっと取った。
「あ、の……ありがとうございます」
ウホァ、可愛いぞこの子!
思わず魔手が伸びそうになるが、その輝く笑顔に俺の邪気が霧散していく。
――コノコニハイタズラシチャイケナイ!
そんな言葉が頭の中で響いた。
兎にも角にもオッサンを睨みつける伊隅の脇にそっと栄養ドリンクを置く。
ひゅばっとソレを掴んで流れるような仕草でストローをぶっ刺すとちうーと中身を吸い始めた。
速ェ。
次いでポニ娘に牛乳を渡そうとするが……
「……」
めちゃくちゃ睨んでるよ。
っていうか俺が何をしたんだよ……
ふとあの子を見ると、オッサンに渡すことが出来ずにおろおろしていた。
ここで時間をかけるわけにはいかない……!
小粋なギャグでポニ子の心を奪いつつ勝負!!
「ホラ! 僕の牛乳飲んでたも!!」
胸に牛乳瓶の底を押し当て、ずいと近寄る。
衝撃が、俺の左パイ(左胸)を襲った。
「……んんんんんんんふぅーーーーーーー……」
物凄く痛い。
きっと俺の乳輪はそうとう巨大化した事だろう。
嫌悪感を爆発させたポニ子が叫ぶ。
「……最ッ低!」
くふぅっ、畜生が! こんな事までされて我慢できるほどいい子じゃないぜ!
「ふ、ふふふ……こんにゃろう……ちょっとばかし可愛らしい顔してりゃあなんでも許されると思ってやがんな……?」
ゆらり、と蠢く。
「おばちゃんッ! 牛乳10本用意してくれ!! 大至急!!」
これが、後々続く戦いの序曲になろうとは、このとき思いもしなかったわけだが。
「げぷぁーーーっ!! まだまだ青いなヒヨっこが!!」
だん、と飲み終わった瓶を机に叩きつける。
ポニ娘はまだ二本目の半ばといったところだ。
目に浮かべた悔し涙がなんとも微笑ましいでないの。
「速瀬! よくやった。もう、いいんだ!」
伊隅が止めるがポニ娘は制止を振り切ってくぴくぴとそれを飲み干した。
がんばるねぇ。三本目を口につけるポニ娘、もとい速瀬はぎゅっと目を瞑り三本目を傾ける。
「おい、小娘」
俺は必死にそれを飲む速瀬に声をかけた。
ちらっと目を開ける。
「ビーチク」
軍服を捲り上げると見事に俺の胸には牛乳瓶のあとがついていた。
おお、みるみる顔が赤く……
ぶはっと噴出される牛乳。
「な、何考えてんのよこの変態!」
口の周りを白くしたまま席を立つ速瀬。
「なんだと!? こんな体にしたのは……あんたじゃないのさッ! もうお嫁にいけないっ!!」
とりあえず上半身裸な上に内股でPXを逃げ回る俺。
いつの間にか視線を集める俺と速瀬。
逃げ惑う俺、追撃する速瀬という構図に終止符を打ったのは
「……静かにせんかッ!」「やめろ速瀬!!」
二人の隊長の喝だった。
そして
「「「「――あ」」」」
儚げな子がびたんと転び、オレンジ色の液体がぶっかけられるおっさん。
周囲に甘い、夏の香りが漂う……ってちがう! んな穏やかな空気じゃねぇよ!!
やばい、最悪俺が身体を張ってでもこの凶獣を止め
「……怪我はないか? 涼宮君」
げっ、おっさんが微笑んでるよ!
その笑顔も少し怖いよ!!
――そしてその後、何故か知らんが俺が半裸で正座させられたのは……正直思い出したくない。
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それから、少しずつギクシャクしながらもマンバ隊と伊隅隊は歩み寄っていった気がする。
なにより、あいつらがまりもさんの教え子だったっていうのに驚いた。
どうりで、どこかまりもイズムを感じさせるわけだ……
可愛いし。
速瀬は相変わらず事あるごとに一気勝負を挑んでくるし、涼宮は相変わらず物静かだ。
ミサエと梼子は相変わらず少しムフフな関係で。
少し変わって行ったのは、ミッチーだな。
オッサンに噛み付かなくなった。
隊長同士、気があったのかもしれんな。
と、今日はここまでにしとくか。
俺はペンを置くとぐっと背骨を鳴らした。ボキボキと凄まじい音が聞こえる。
それにしても……こうして見てみると人の出会いなんてわかんねぇもんだよなぁ。
今となっては……少なくとも俺が背中を預けられる数少ない衛士たちだ。
何度も言うが可愛いし。
そんな事を考えてにやけていると、ツノを生やしたまりもさんの顔が思い浮かんだ。
……うん。やっぱ、アレだ。まりもさんが一番です。
ノートを閉じると、俺はそれを引き出しにそっとしまった。