――18時55分 パートナー抽選完了――


 これでタッグがそろった訳だ。

 まずはAチーム。珠鎧ペア。和を重んじる珠瀬と独創的な鎧衣のコンビだが……長所はお互いの弱点をカバーし合えることか?

 反面主体性のない二人組みと考えてもいいかもしれんな。

 ほいでBチーム。剣涼ペアは……多分文句の付け所がないはずだ。事実上俺らはココに一番注意を払いつつ進まにゃいかん。

 唯一の弱点は歩幅の合わなさくらいか? 身長差が後々ネックになってくるといいが……

 Cチームは俺と若干天然なのかのらりくらりと追及をかわす柏木のコンビ。っていうか俺と身長マトモに合う奴がこいつか御剣しかいなかったんだよな。

 歩幅も似たようなもんだし、死角は……

「きょーかん。勝ったら合成中華丼大盛りでお願いしますよ?」

 だめだ。未だにコイツの正体が見えん。

 そして栄えあるラストに選ばれたペアは……

「榊、足短い」

「な、何て事を言うの!?」

「胸はそうでもない」

「そんなの今は関係な……きーーーッ! 触ってるんじゃないわよ彩峰!」

 一応、主役なんだがな。まぁココまでは最高の結果を出してる二人だ。頑張ってもらわにゃ困るんだよ。

 Dチーム榊・彩峰ペア。まぁ倍率は200ってとこか? 上手く行けば最高のペアだと思うんだがなぁ。

 ま、大穴で優勝するもよし。はたまたドンケツでがっかりでもよし。

 最終的に何かに気付いてくれりゃあ御の字だな。

「あのー、教官……」

 俺におずおずと声をかけてくる三羽ガールズの一人。

 未だに布を頭から被ってるこいつの名前はたしか……

「あー、と。なんだ佐藤?」
「築地です」

 ああ、そういやそうだった。

 何となく涼宮と柏木の存在が濃すぎてどうしても薄味なんだよな、こいつ。

「私は何をすればいいんですか?」

 ……まさか今さら見せ掛けだけのリザーバーだったとは言えんわな。

 よし、思いついた。

「お前には特別審判になってもらう。俺たちについて来るんだ!」

 正直審判はまりもさんだけで十分なんだよな。

 今回は所々にセンサーがついててそれをモニターするだけでもいいんだが……

 まぁいいか。

 何を隠そう面倒くさいし。


 ――18時58分 準備完了?――


 さて、と。皆テープを足に巻き終えたみたいだな。

 こいつはエセラテンヒート特製のセンサーつきガムテだ。

 まぁ、縦に細めの銅線入れて、テープはがすと銅線が切れる=センサー反応消えるって簡単な奴なんだが。

 それは置いておいて……

「きょーかん。セクハラしないでくださいよ?」

 ええぃ、柏木。人聞きの悪い事を。

「安心しろ。何かあっても事故だ」

 俺はニヤリ、と顔をゆがめる。

 イスに座っているまりもさんがはぁ、と呆れたため息をついた。

 ああ、呆れ顔もステキだ……

 あのボケがその隣でしきりに話しかけたりしてなければ。 



 そういや、そろそろ時間だな。

 佐藤、じゃない、築地も時間を見ながら準備している。 

「うっしゃ、柏木気合入れてくぞ」

「もちろん。やるからには勝ちますよっと」

「頑張ろうね壬姫さん」

「うん。がんばろう!」

「御剣、調子のほうはいいの?」

「よい。涼宮、必ずや勝利を」

「……足引っ張るのはよしてね」

「それは私の台詞よ!!」

 かくして、わくわく二人三脚ふぉーヘルは

「そ、それじゃあ、位置について……」

 様々な人間模様を内包しつつ

「ヨーイ……テッ!」

 比較的無難に開催され

「彩峰ぇぇぇ! 先ず右足からが普通でしょ!」

「……うるさい」

「なんですってぇぇぇぇ!!」

 ないよな。やっぱり。


 ――19時00分 スタート――


 げに素晴らしきは柏木晴子。

 意外と我が強いかなーとか思ってたんだが協調性バツグンですよ。

 今俺の中で嫁にしたい娘ベスト3に入ったね。

 ここまではダントツとまで行かないが俺達が首位だな。

 たいした距離離れているわけではないが、二位に御剣、涼宮ペア。三位は珠鎧コンビで……まぁ大方の予想はついていたが最下位が犬猫ペア(榊=犬、彩峰= 猫)だ。

 首位、最下位間は結構距離があるが、三位までは結構デットヒート。

 二位の二人は結構負けん気が強いからか、どうやら離されるほどにブースト加速してくるタイプみたいだ。

 後ろから1,2、1,2と規則正しい掛け声の中にそいやとか追いつくわよとか覇気が篭もった声が聞こえてくる。正直怖い。 

 珠鎧コンビはあっ、とかごめんね。とかそういった感じの声が良く混じる。

 若干他人行儀な雰囲気だな。

 犬猫コンビは……いや、何も言うまい。

 しかし良くあそこまでお互いの欠点とかを羅列できるな。

 ある種仲がいいのかもしれんな。

 と、柏木の目が何かを捕らえたようだ。 

 くい、と袖を引っ張ってくる。

 ……どうやら、剣宮ペアも気付いたみたいだな。

 そう。ここが第一チェックポイント……そう。例の青い台だ。

 だが

「きょーかん……これ、明らかにトラップですよね?」

 柏木をはじめ他の面々はいつの間にやらグラウンドの隅が杭だらけになっているのに気付いたのだろう。

 不審そうな顔でその杭の森を見つめている。

「あれー? テグスが黒く塗られているのかな〜? 良く見えないぞ〜?」

 なるべくわざとらしく言う俺。

 ここでまずペアの協調性だとかそういったものを試すのが目的だ。

 多分。

 
 ――19時12分 全ペア第一チェックポイント到着――


 さぁ、意外にもここで順位が動いた。

 首位は俺、柏木ペアを追い抜いて以外にも珠鎧コンビ。

「壬姫さん。そこにまた一本あるから気をつけて」
 
「う、うん。ありがとう鎧衣さん」

 上手い事二人が機能している。素晴らしいことだ。


 二位は、俺、柏木ペア。自慢じゃないが安定感が凄いぞ。俺達は。

「きょーかん、胸触らないでくださいよー?」

「ィヤカマシィ! さわら、たい、ない、いや、違う!」

 少しなめられてる気もしないでもないが。


 そして三位、剣宮ペアは

「む、涼宮。そちらだとトラップが多い。此方にするがよい」

「そう? 手前は多そうだけど奥になると少ないわ。結果的にこっちを進んだほうがいいはずよ」

 ココに来て少しペアの我の強さが現れたみたいだな。重畳重畳。

 まぁ、なんだかんだいいながらいい方向に持っていくのがあの二人の特徴でもあるんだが。


 最下位の犬猫ペアは……まぁ、期待通りというかなんというか。

「ちょっと! 離れすぎよ!」

「こっちの方が絶対いい」

 少し協力、強調、尊重って言葉を考えてくれ。


 とか余裕を見せてるうちにいつの間にか珠鎧ペアが最後の難関に差し掛かろうとしている。
 
 さぁ、気付く事ができるかな?

 ぴた、と鎧衣が止まる。

 お、さすがはサバイバー。気付きやがったか。

 いぶかしげな表情をして珠瀬を止めると、出来得る限り体勢を低くしてそこにある“何か”を見つめる。

 そして、怒色を前面にうち出して此方に振り返った。

「教官、これ……!」

「そ。前大戦中に使われてた地雷ってモンだ。実物見るのは初めてか?」

 しかも、ちょいと特別製だというのは黙っておこう。

「じ、地雷って……危ないじゃないですか!」

 鎧衣の言葉はもっともだ。珠瀬は少し泣きそうだし。

 俺は邪悪な笑みを浮かべて二人に言い放つ。

「ああ、危険だなぁ。ふんずけたが最後、グチャミソになるなぁ」

 その言葉に反応した珠瀬の身体がビクっと跳ねる。

 死を恐れた風なその動きに俺は少し満足。

 それが目的の一環でもあったし。

「知ってるか? 地雷で死ねないとな、足とかがないまま生きるんだぜェ〜! くひゃーっひゃっひゃっひゃ!」

 やばい、俺最高。最高の小悪党風味。

「きょーかん。それは駄目だと思いますよ?」

 うわ、裏切り者。

 ちょっとオトーサンかなしいわッ!

「さぁ、どうすんだ? 開拓者になるもよし。移民になるもよし。はたまたミンチも捨てがたい」

「な、なら教官が一番先に」

「おぉーーーっと、勘違いすんなよ? あくまでも俺はお前らに鉄槌を下す為にこれをやってるんだ。俺は安全を確認してから行くがね」

 いいね。いいように珠瀬、鎧衣の目に迷いが現れる。

 後から来た御剣、涼宮も最初の一歩を踏み出せないでいる。

 さぁ、ここで誰が動くか。順当にいけば御剣、涼宮だろうが……もしかすると、まかり間違えば榊達の可能性も捨てきれない。

 次に誰が動くか、それが最高に楽しみだ。


 ――19時28分 榊・彩峰ペア、行動開始――

 
 ついに機先を制して動いたのは榊・彩峰ペアだった。

 彩峰がぐいーっと身体を前に傾ける。

「ちょ、ちょっと彩峰! た、倒れるでしょ!?」

 倒れそうになるまで身体を傾けた彩峰を必死に引っ張る榊。

 うんうん。いい光景だ。いや、やましい意味じゃなく。

 ひくひくと彩峰の鼻が動いているのが見える。

 何やってんだ? あいつは。

「……これ、火薬のにおいあんまりしない」

 うおぉ!? なんだと!? っていうか地中の地雷のにおい嗅ぐって!

 俺はしまった、という雰囲気を露骨に顔に出す。

「……ブラフ、見え見え」

「げっ、俺としたことがはめられた!?」

 急いで取り繕うフリをするがもう遅く、どんどんと偽地雷原に飛び込んでいく面々。

 まぁ、それも当然計算の内だ。

「あー、きょうかーん。私たちも早く行った方がいいんじゃないですか?」

 そういいつつもどこかのんびりしている柏木。

 うん。コイツは冷静に戦況判断できるやつになりそうだ。

「構いやしねぇよ。……お、そろそろいいか」

 突然、偽地雷原を歩いていた彩峰の足元がまばゆく光る。

 連鎖したようにそこかしこから光が溢れてくる。

 と、突然。

 彩峰の胸に

 真っ赤な花が、咲いた。

 珠瀬が悲鳴をあげる。

 ニヤリ、と俺は顔を歪め言い放つ。



「さぁ、お嬢さん方。命を懸けてパーティーしようぜ」





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