――17:32――


「ふーふふーふーふーふーーん」

 他の連中は一足先に持ち場の方へと向かった。

 暇を持て余した俺はのんびりと仕掛けをいじくっている。

 アメリカの国歌を口ずさみながら珍妙なハコを弄くる俺は傍目から見ると結構シュールかもしれない。 

 しかし、今回のミッションでこのハコは最も重要な役目を担ってるからな。

 失敗しちゃった、テヘ。

 じゃぁすまない。

 しっかり確認せにゃ…… 

「あのー。教官、言われた通り来ましたケド……」

 後ろから聞こえた待ち人の声。振り返らずに二人に言う。

「お、悪いな。つってもまだ時間あるから……お前らはそっちのそれをかぶっててくれ」

 おっし。細工は流々。後は待つだけ、だな。

「きょうかーん。暑いですよコレー」

 スマン。暑いのはわかるが今は耐えてくれ。

「あ、かぶり終わったらそのハリボテの後ろに隠れておいてくれ」

 ハリボテっつっても二本のポールの間にシートを張っただけのもんだけどな。

 ま、何よりあいつらに必要なのはインパクトだ。他はまぁある程度どうでもいいっちゃどうでもいい。

「きょーかーん。まだですか〜?」

「ああ、これからはなるべく静かに頼むぞ。俺が呼んだら手はずどおりに出てきてくれ〜」

 時間の方は……もうじきか。さて、もう一人が来るまで待つとするかな。


 ――17:40―― 


「ケヴィン大尉。一体どうしたんです? こんな時間に呼び出して」

 待ち人来る。俺は声のした方に振り返ると、そこには少し困り顔のまりもさんの姿。

 俺は満面の笑顔でまりもさんを歓迎する。

「結婚してくださ」

 優しい笑顔ですっと拳銃を懐から取り出すまりもさん。

 この人も最近俺に対して嵐のような暴力を振るうようになってしまいました。

 俺ショック!

「とりあえずその後ろのシートはなんなの?」

 周りに誰もいないからか、砕けた感じの口調になってるまりもさんに少し俺は嬉しくなる。拳銃もしまってくれたし。

 最近忙しくてあんま話す機会無かったからなぁ。

 ゆっくりこっちに近づいてくるまりもさん。

「あー、あれは控え室みたいなもんですよ。あそこには助っ人が控えてるんす」

 パイプイスを一つ組み立てて自分の隣に置く。

 いい? と一言まりもさんが言ったのを受けて当然の如く俺は頷いた。 

 やべ、顔がにやける。

「それで、私は何をするの?」

 小首を傾げる様な雰囲気で俺に聞いてくるまりもさん。

 あー、やっぱイイ。

 と、いかん。下手にニヤニヤしてると怪しまれちまうからな。

 ここでまりもさんに帰られるのは正直あまりよろしくない。

 いや、別段問題ないかもしれないが……ダメ男な印象を持たれ続けるのはこう、なんだ。

 つまりそういうことだ。あんまり深く考えないようにしよう。

 一人そう納得しながら俺はまりもさんに今日の仕事を説明する。

 なんだ、この時間がずっと続けば俺嬉しいんだけどなぁ。


 ――17:45――

 
 まぁ、どんな楽しい事もいつか終わる。

 人生と同じだな。

 なんてかっこいい事言ってはいるが……

 皆時間に余裕を持って来たのと、若干一名来てない事を踏まえても予定の内だ。

 ただ、その最中俺にとって予定外のアクシデントが発生した。

「はぁ、君は相変わらず無駄な事が好きだね。君の我侭に付き合わされる彼女達が僕には不憫でならないよ」

 榊よ、なんでそいつを連れて来たんだ?

 まぁ、連れて来た所でそう大した変更はないだろうけどな。

「ヘイヘイ。まぁ好きなように言ってくださいな……」

「何か言ったかい、ケヴィン大尉?」

 まー、お耳がよろしい事で。

 鬼に千切られても知らねぇぞ。

「いえ、何も言ってませんが?」

 ボケは鬼のような形相で俺に掴みかかる。

「嘘を言うな! 貴様ついさっきこのロメオ・ジョシュアを愚弄したろう!」

 嫌だね。被害妄想全開の男って。

 そろそろ積年のいろいろな物が爆発しそうだ。

 そんな俺に御剣が絶妙のタイミングで助け舟を出してきてくれた。

「教官殿。そろそろ今回の行事の内容を教えていただけませんか?」

 何故かはわからないが表情が幾分か柔らかい。

 何があったんだ……?

「内容を説明してやりたいのはヤマヤマだが……彩峰がまだ来てねぇからなぁ。悪いがもう少し待ってくれ」

 さりげなーくボケの手を払う。

「まー、多分時間ギリギリに来るだろうからなぁ〜」

 そしてさり気なく御剣に接近するフリをしてボケから離れていく。

 奴の傍で同じような空気を吸うのは耐えられん。

 心の中で御剣に礼を言うと、何故か御剣は俺を見て優しく微笑んだ。

 なんだ? 俺の顔がそんなに笑えるとでも言いたいのか……?


 ――17:57――


 明らかにイライラしている榊を尻目に彩峰はいつも通り気だるい雰囲気だ。

 っていうかもう少しやる気出してもバチ当らんと思うんだがどうかね?

「来た」

「よし」

「眠い」

「起きろ」

「わかった」

 少し間を置いて、すーっと俺と彩峰は手を肩の位置まで持ってきてビッとサムズアップ。

 なにやら意思の疎通が出来ているようだな。

「教官。説明するならするで早くしてください」

 榊こえー。

 般若だぜコレは。

 オーガ榊と命名しよう。

「あー、わかったわかった。とっとと説明してやっからそんなセクシーな声で叫ばないでくれ」

 更にヒートアップする榊を少し無視しながら説明を開始しようとしたその時だった。

「きょーかーん。もう出ていいですか〜?」

「ま、待て! っていうか合図するまで喋っちゃ駄目って言ったじゃないのさ!」

 ぎゃー、締まんねぇ! そんな君が大好きだ!!

 その思わぬアクシデントにウネウネする俺。

 榊をはじめまりもさん以外はみな突然の声に呆然としている。

 ま、当然だな。と、言うより驚いてくれなきゃ困っちゃうんだよなぁ。

「し、仕方ない。カモン! 三羽ガールズ!」

 ハリボテ(仮称)の裏から出てきた三つの影。 

 皆一様に黒い布を頭から被っている。

「ふふふ、来たわね。教官を苦しめる問題児達」
「きょーかーん。これ暑いんですー」

 うおお、台本渡したでしょうが! 晴ちゃん、後でオシオキよ!

「今の声……まさか、貴方……」

 榊は気付いたか? まぁ中々な人選だと思うぞ。俺は。

 さて、手早く説明のほう行くとするかね。

 俺は予めまりもさんに渡しておいた紙の束を受け取ってそれを見せる。

「さぁ、取り出したるはわくわく二人三脚ふぉーヘルのまぁ パンフレット だ。各員目を通してくれ」

 それを大雑把に分けてとりあえず御剣に渡し、分隊の全員にくばるように促す。

 うん。さすがに早いな。

 残った奴は三羽ガールズとまりもさんに手渡した。

 さ、読み終わるのを待つかね。


 ――18:05――


「さて、皆目は通したと思うが……何か質問はあるか〜?」

 真っ先に手を上げたのは御剣だ。

 うんうん。真面目に取り組んでくれる御剣が今は非常にありがたいぞ。

「二人三脚という風にかかれていますが……どのように相棒を決めるんでしょうか?」

 ふふふ、いい所に気がついたな。

 えP(えらいぞポイント)をやろう。

「いい所に気付いたな。パートナー決めは……不公平がないようにこのドキドキBOXで決める」

 こんどは榊がさっと手を上げた。

 お、真面目に取り組む気になったか?

「私は反対です。教官がなにか卑怯な手をお使いになってるかもしれませんから」

「あー、それなら安心してくれ。ホレ。ズルする余地なんかねぇよ」

 BOXをゆすると中から聞こえてくるのは何かがゴトゴト動く音。

 ついでに中身を全部表に出す。

 中に入っていたのはメ、剣、猫、鎧、巨、釣、垂、空とそれぞれ彫られた板。

 この字がそれぞれ面々に適応している事を教える。

 榊は何か釈然としない顔ではあったが渋々承諾したようだな。

「てー事で安心しろ。俺が全部引くけどズルはせんよ」

 まぁ、イカサマはしてるけどな!!

 俺は心の中でぐっと喜びを噛み締めていた。
 

 ――18:45 パートナー抽選開始――


「さーて、とっとと始めるか〜。先ず一人目が……」

 ゴソゴソハコの中のダミー札を手でこねくり回しつつ記憶を頼りに横に貼り付けておいた札に手を伸ばす。

 ベリっとはがす時は鼻歌で上手い事はがした音を消すと事を忘れない。

「さーてーとー。一人目は……タマーセーだッ!」

 札を突き出す。札には猫の文字。

「ね、猫って私だったんですか〜!?」

 ぉぅ、お前さん以外に誰がいるんだ。

 にっこりと俺は微笑んで珠瀬を手招きする。

 少し緊張した面持ちで俺の前に来る珠瀬。

「さぁ、コードネーム猫の相方は……」

 これは勿論決まってる。体格的にも正確的にも多分コイツと合ったり合わなかったりするだろう。

「決定ッ! コードネーム鎧! そのまんま鎧衣だッ!」

「はーい」

 とたとたという足取りで鎧衣が珠瀬の隣にやってきた。

 よろしくね。よろしくおねがいします。とにこやかなムードの二人。

 さ、次行くか。

「次は……を、御剣カモーン」

 板を見せるとつかつかとやってくる。

 うーん。歩き方一つとってもやっぱ凄いな。いい意味で。

「さ、御剣の相方は……はい出た。三羽ガールズの一角、釣カモン!」

 二人同時に前に出る。

「だからでっかいほうはまだだァー!!」

 えー、と明らかに嫌そうな声を出すでかいほう。

「あの、教官。これもう取っていいんですか?

 おお、そうだった。

 俺はグッとサムズアップする。

「はー。正直少し暑かったのよね。これ」

 布を取り去った娘っ子の顔を見て、榊が硬直する。

「……茜……」

「あ、御剣さんよろしく。涼宮茜よ」

「うむ。御剣冥夜だ。改めて頼む」

 ここはいわばエースタッグだからな。

 がんばってもらわにゃ。

「あー、暑かったー」

 柏木。お前人の話聞いてなかったろ?





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