「い、いたい!! サンのあしが、あしがいたいよ!!」

 ベレッタから吐き出された銃弾は、辛うじてサンの足に命中した。

 同時に手首の辺りに備え付けられている注射器をとって首筋に薬を注入するとサンを睨みつける。

 左腕が一度、鈍い音をたてる。

 と、同時に僅かに高揚した気分で吹き出す血にうろたえ、力の制御ができていないサンに更に銃弾を撃ち込む。

「――お、かぁ……さ」

 最後に頭に一発。

 それきり華奢な身体は動かなくなった。

 大きく息を吐く。

「ば、馬鹿な!? あなたには慈悲の心とか道徳概念とかそういった」

「黙れよクソガキ。残念だが俺は清く正しいスーパーヒーローなんかじゃねぇ」

 そう言ってイチの頭に銃弾を叩き込む。

 がくん、とイチが車椅子から転げ落ちた。

「……クソが。胸糞悪ぃ……」

 ついでに体も所々痛ぇ。

 あー、ったく。これは骨やっちまったかもしれんな。

『――っと! ちょっと! ケヴィン!! 返事をしなさい!』

 遅いよ夕呼さん。

「あいよ……まだ、生きてます」

 声が少し擦れてる。

 いくら薬を打っているからと言え、正直この状態はちと辛い。吐き気すら催――
苦しい
 一瞬脳裏に何かが過ぎる。
憎い
 気のせいじゃ、ない。
なんでお前だけ
 と、同時に脳を駆け巡る激痛と負の感情。
殺してやる
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
お前も一緒に
『ど、どうしたの!? ちょっとふざけるのはやめなさい!』
寒いよ
 膝をつき、頭を振って本能的に痛みを振り払おうとしている。
痛いよ
 しかし、脳に直接叩き込まれる痛みに抗う術は無く。
死のうよ
 俺は拳銃に手をのばス。
一緒に死のう
 ソレをユっくりトこメかみに押し付けヒきガネに指ヲカケタ。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 早くシナナキャ。シナナキャ。シナナキャ。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
「ぐ……んぎぃっ!」
何をしている?
 拳銃を無理矢理引っぺがしてソレを地面に押し付ける。
早く、死ぬんだ
 うるせぇ。俺が考えてることもわかってるんだろうが。俺の頭の中を引っ掻き回しやがって。
死ね。さぁ死ね
 銃を持ってるのは、まずい。
早く死ね。死ね
 下手をすれば自分で自分を撃ちかねない。
死ね。死んでしまえ
 他人の腕みたいになった右腕で自分の頬を思い切りぶん殴る。
死ねシネシネシ
 少しだけ声が遠のいた。

「ヒ、ヒ……ナンデ……シナ、ナイ……!?」

「そりゃぁ、こっちの台詞、だ。ド頭ぶち抜かれて生きてるんじゃ、ねぇよ」

 いまので、わかったことがある。痛みとか、要するにアイツに送り込まれてくる物より強烈な事を考えればいい。

 大丈夫。簡単な事だ。俺はイチに向かって一歩づつ歩く。
早く死ね! 舌を噛み切って死ね!
 死んでたまるか。やらなきゃならん事は腐るほどある。
さぁ、死ね! 貴様は罪も無い幼子を平気で射殺したんだぞ!
 クソが、声が、また、つよく……
どうした!? 今すぐ死ね! 死んでサンに詫びろ! 貴様は生きる価値すらない!!
 気張れ、ここで……
さぁ、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死 ね死ね死ね
 負ける、訳に……
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 死、ぬ……

「き、キキキ……もう、思い残すことも、ないだろう!? さぁ、早く死ねぇぇぇぇ!!」

 思い、残す、こと……?

 ぎしっと歯を噛み締める。奥歯が変な音をたてると、口の中は一気に血生臭くなっていた。

「ふざけんな……俺には、やり残したことがあんだよ……」

 ぐにゃぐにゃになった身体に喝をいれて顔を上げる。

 思い浮かべたのは、勿論……まりもさんの顔。

「キ……馬鹿な。その女だって……影で貴様をどう思っているかわからない……もしかすると、死んでほしいほど貴様を恨んで」

「黙れ……まりもさんが他の男と寝てようが、俺を殺したくてもかまわねぇよ。でもな、どうせ死ぬならてめぇみたいな不細工の為じゃなくて惚れた女の為に俺 は死ぬね」

 まりもさんの事を考えると、声がかなり小さくなる。

 ――サンキュー。まりもさん。

 身体が軽い。

 いまなら、一気に行ける!

 ダッシュでイチに接近して顔面を蹴りこむ。

 頭には骨が入っていないようにぐにゃりとゆがみ、そのまま頭がはねとんだ。

 中から出てきたのは、おびただしい量の、恐らく脳。

 薬を打ってなかったら、今頃卒倒してるだろうな……

「……夕呼さん。なんか、とりあえずバケモンと戦闘……これを撃破した」

『バケモノって……あんた、まさか』

「とりあえず、アーノルドの奴を呼んでください……たの、みます」

 そのまま俺の意識は深い闇の中へ沈んでいった。



 **********************



 あー、また、か。

 最近、ここにくる機会が増えてる気がする。

 前は、何ヶ月かに一辺あるかないかだったんだがなぁ……

 くそ、胸糞悪ぃ。

(キキ、せめて、少しは苦しむがいい)

 最後まで……胸糞の悪いガキだぜ……



 **********************



『うへぇ、連中ゾロゾロいますよ……後詰めで楽な仕事だと思ったのに。ねぇ? 隊長』

 レッド7=スティッキンがいつもどおりのんびりとそんな事を言う。

「あー、全くだ。ハンス、何匹いるか数えてみるか?」

『勘弁してください隊長……百や二百で済むような数じゃないですよ」

 レッド4=ハンスは心の底から嫌そうにそう言った。まぁ、女のケツ追っかけまわすのが趣味のお前にはこの状況は耐え難い物があるわな。

『隊長。三時の方向およそ1キロの地点から救援信号が来ています』

 ヤレヤレ……しゃぁないからとっとと行くか。

「OK。レッド1よりヒヨコ達――いや、ホームズ隊各機。いいか? 最低限自分の命は自分で守れ?」

 さて、行くとしますか。

 ぐっとペダルを踏み込むと俺の相棒はぐっと加速する。

「レッド1より各機! レッド隊はアローヘッドワンで突っ込む! ヒヨコ共はフォーメーショングースだ! いいな! しっかりついて来い!」

『『『『了解!!』』』』

 暫く進行を続けていると、必死に抵抗戦をしているF-4Jが見えてきた。その数は既にわずか四機。

 冗談だろ……ここいらには二大隊以上いたはずだぞ。

 突撃銃を構え、真横から四機に群がるBETAに突っ込む。

「レッド1フォックス3!!」

 二体の突撃級の横腹を一辺に撃つ。要撃級が俺に気付いたらしく、こっちへと迫ってきた。

『レッド2! フォックス2!!』

 ナイスタイミング! 俺はブーストを噴かしてそのまま真上に跳んだ。

 俺が飛び去った所に滑腔砲が叩き込まれる。

 さすが、ナイスアシスト。

「レッド1、フォックス3!!」

 空中で狙いをそんなに定めずBETAの群れにチェーンガンを撃ちまくる。

 ほぼ同時にレッド隊の各機がBETA達と取り残された4機を遮るように突撃していく。

『す、すまない! 助かった!』

「礼は後にしろ! おら、とっとと行け! レッド1よりホームズ1! 4機を援護しつつ戦線を離脱しろ!」 

『りょ、了解ッ!』

 4機の内半分がどうやら推進器に異常をきたしているらしい。

 クソが。のたのたしてやがったらただじゃおかねぇぞ。

「ケツの穴しっかり締めろ! 今日は食あたりになるまで食えるぞ!」

『『『『了解!』』』』

 まぁ、当然こんなセリフはポーズでしかないんだが。

 要は時間さえ稼げればいい。

 幸いこの連中は分隊みたいな感じだからな。無限に沸き続けるようなことは無い……と思いたい。

 先の連中が頑張ってくれたのが効いてるな。

『ヒャハハハッ! おら、どうしたバケモノども!!』

『レッド6! あんま調子に乗ってると痛い目見るぞ!』

 ったく、あのバトルマニアが……

 要撃級の腕を避わすと、左腕に格納されていたナイフを抜いてそのまま頭を切り落とした。

 突っ込んできた突撃級を避わすと、十二時の方向遥か遠くに最悪の影が見える。

『レッド4より各機! チェックトゥエルヴ! チキショウ! 要塞級が三機だ!』

 最悪だ。足が遅かった分遅れてきたのか、それとも他の隊に足止めされてたのが来たのかわからんが……

 俺達の士気を下げるのには十分だった。





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