「――現在甲一号目標より出撃したと思われるBETAの一団が地中より秩父近郊に奇襲攻撃を慣行。厚木基地所属の第2大隊を中心として防衛戦を展開中で す」

 目を瞑っていたゴヤスレイはゆっくりと目を開け自分の部下達を見る。

「我々は香月副指令の命により、第二連隊と合流。敵の殲滅に協力する」

「オイオイ、俺らァあの姉さんの直轄なんだろ? なんで他所と一緒にドンパチしなきゃなんねーんすか」

  恐らく眠っていたのだろう。自慢のドレッドヘアが少し乱れたエディはあくびをしながらゴヤスレイに反論した。

 それを聞いたエリーは彼を咎めた。

「それと今回は別働隊としてケヴィン大尉、アーノルド中尉にはエレメントを組んでもらいます。……? ケヴィン大尉?」

 CPを担当する女性が周りを見回す。

「……あの愚か者が」

 ゴヤスレイはそれだけ呟くとため息をついた。

 **************************

「ッドォラァ! 呼ばれて急いできたけど遅れたヒーロー参上! マンバ隊の皆待たせ」

「行くぞ。時間がない」

 渾身の一撃をオッサンにぶった切られて俺は派手に転んだ。

 物凄い摩擦熱が俺の顔面を襲う。

「熱いたい! 顔が! 顔が焼ける!!」

 こっちをいつもどおりの冷めた目で見ていたおっさんは、一度かぶりを振ると、目頭を抑えて俺に言ってきた。

「焼ける顔がまだ残っているだけ喜べ。それよりも急げよ。子細は行きがけにアーノルドから聞け」

 むあ、先手を打たれたか。っつーかタッチアンドゴーですか。

 それだけ言うと各々駆け足で部屋を出て行く。強化装備に着替えにいったんだろう。

 というより、出撃なのにデート行くような馬鹿はおらんだろう。

 何はともあれ俺も急がにゃ…… 

 おっと、そうだ。

「あー、ピアティフちゃん。夕呼さんに“ワレ、M−R−M攻略ニ失敗セリ”って伝えておいてくれぃ。よろしく〜」

 疑問を挟まれる前に俺は待機所を飛び出した。



 ******************



 旧市街地を俺達は行く。

 所々ベータや戦術機の残骸が散らばっているのが何やら焦燥感を募らせる。

『マンバ1よりHQ。戦闘域までの予測到達時間は如何程か?』

『HQよりマンバ1。現在の速度を維持した状態ならば、30分程で到達する事が予測されます』

『マンバ1了解。マンバ2、マンバ5。準備はいいか?』

「マンバ2、まぁとりあえず了解」

『マンバ5問題ありません』

 やれやれ。

 エレメントでの行動は正直あんまり好きじゃないんだよな。

 動きの制限は小さいんだが、如何せん動く量が増える。

 面倒くさがりな俺としてはしんどいことこの上ない。

『マンバ2。作戦行動中だ。不明瞭な発言を今後はするな』

 あーあーヤダヤダ。真面目一辺倒な子っていやぁねー。

「へいへい。マンバ2、今後は口を慎みますよっ、と」

 足元の倒壊家屋を飛び越える。

 今日も俺のハニーは中々機嫌がいい。

 凄い機嫌がいいのはいいんだが、少しばかり嫌な予感がする。

 何もなきゃそれでいいんだけどな……



『マンバ1よりマンバ2。ここから別行動となるが……少し気を入れて行け』

 オッサンの乗機で隈取のような塗装を顔に施したF-15Eの1番機が一度振り返る。

 ちなみに、その塗装が傷にも見える事からスカーフェイスと呼ばれている。

「了解。まぁ、安心しなさいよ。ぱぱっとこなして帰ってくっから」 

『マンバ5。少しばかりそいつの世話は辛いかも知れんが頑張ってくれ』

 おい。なんだそりゃ。

『はは、了解です』

 ははじゃねぇ。

『バカの世話は大変だろうけど頑張れマンバ5』

「オメェーにだきゃ言われたくねえよマンバ6」

 ぐおん、とシシトルのシンボルが胸に刻まれたF-14が右腕を薙いで来た!

 慌てて機体に回避行動を取らせたお陰で辛うじて大惨事を免れることに成功する。

「阿保ゥがッ!! 当たったら作戦に問題が出るようになるだろうがよ!」

『煩いぞ! お前がアタシをバカにするからいけないんだ!』

 うおぉ、この女無茶苦茶言いやがる!

『ヒュゥ。遊んでたい気持ちはわかるけどよ。奴さんがた、来なすったぜ』

 あーったく。タイミングの悪い連中だ。

『マンバ1よりマンバ2。戦闘行動に移る前に、貴様らは早く行け。尚、以降の通信はエレメント間での通信のみを許可する』  

 うわ、通信禁止か。

 そこまでやらなけりゃならん状況なのか?

「マンバ2了解。まぁ、オッサンの説教は帰ってからじっくり聞いてやっから悲しむなよ」

『ふん。安心しろ。貴様が死んだとしても俺は気付かん』

 その言葉を最後に、俺達と四人との通信が途絶える。

 何はともあれ、俺達は目的地へと飛んだ。

 肩にデカデカとヘラクレスのエムブレムが入れられたF-15Eも俺に続く。

『どうやら皆戦闘を開始したみたいだな』 
 
 確かに。背後で突撃銃が火を吹いている音が聞こえる。

「だな。さて、かったるいからとっとと終わらせちまうぞ!」

 俺達はブリーフィングで事前に聞かされていたポイントへ急いだ。



 ******************



 山の中にぽつんとあった白い建物。

 刑務所か、はたまた隔離所かと言う様な建物が俺達の目的地だ。

「随分とまぁ辺鄙な所だやな」

『だなぁ。もう少しこう回りにトレーニング施設とかがあれば上等かな?』

「いや、そりゃあお前だけだ」

 俺は相棒をしゃがませてコクピットのハッチを開ける。

 少し生暖かい風が頬を撫でた。

 うぇ、気持ちわり。

『まぁ、警戒は任せておけよ。あと何か筋肉によさそうな物があったら頼むよ』

「OK。手足のない生き物がいたら持ってきてやろう」

『はは。そんな物持って来られたら俺お前を踏み潰しちまうかもしれない』

 うわ、コイツマジだ。

 顔は見えんが多分相当鋭い目をしてるに違いない。

 俺は両手を上げると素早くコクピットから出た。



 まぁ、別にそこまで危なくはない気がしないでもないがベレッタM92のマガジンに15発キッチリ納められているのを確認するとそいつを片手にゆっくりと 建物を潜入する。

 荒らされた様子もないし、多分ベータはここに見向きもしなかったんだろう。

 と、言うよりもこんななんでもない所に連れて来られたのか良くわからんぞ。

「あー、マンバ2よりHQ。例のポイントに到着。面白いぐらい何にもない。どーぞー」

『だらけてるんじゃないの。納戸が207号室のクロゼットにはしごがあるわ。そこから地下に向かいなさい』

 うお、いきなり夕呼さん出てくるなよ! 無茶苦茶焦ったって!

「あ、あー。了解。とっとと行きます」 

 っつーか207号室ってどこだよ。しかも二階からはしご使って地下に行くってどんな構造だよ。

 俺はとりあえず二階に走る。

 正面奥の階段を駆け上がり二階廊下を見て愕然とする。

「……あのさ。何この部屋の多さ」

 おおよそ扉と扉の間隔は10cm。

 しかも上にプレートがあるわけでもないので207号室がどこにあるかすらわからないのがコツだろう。

「……夕呼さん。なんかヒントとかないんすか?」

 途方にくれた俺はとりあえず夕呼さんにヘルプを求めたのだが……

『見ればわかるでしょ? 早くしなさい』

 いや、見ればって……見渡す限り白いドアしか見えないんですが?

 とりあえず手近にあったドアを開ける。

 その先には壁。

「……コレならドアつける意味ねぇじゃねぇかよ」

 ヤケになった俺はとりあえずドアを適当にチョイスして開けていく。

 こういう時にあの勘が働いてくれない自分が悲しい。



 32個目のドアを開けたところでようやく目的の部屋を発見した。

 窓も何もない部屋にペンキ? で書かれた207の字。 

 むしろ、ここじゃなかったら泣けるな。

 クロゼット? と思しき物をゆっくりとあけると、床が無い代わりにはしごの頭が視界に入った。

 っつーか凄い錆びてるんですが?

 むしろ腐ってるんじゃないのかコレ?

 とにかく腹を括って俺は暗黒へと脚を踏み入れた。


「夕呼さーん。暗くてなんも見えないっすー」

 目がなれるとかそういうレベルじゃない。なにせ真っ暗だからな。

 はしごはかなり長く、ゆうに三階分は下りて来た俺は微妙に黴臭い一室に到着していた。

『右の壁面にスイッチがあるはずよ』

 とりあえず手探りで壁を弄繰り回し、ようやっと目当てのスイッチを発見する。

 スイッチを逆方向に倒すと、俺の瞳孔は突然の光にさらされることになった。

「――ッ! 眩しっ!」

 目を閉じ、それからゆっくりと開いていく。うすぼんやりとしか室内の様子がわからないが、俺はゆっくりと歩を進める。

「ところで、何を俺は持ってけばいいんすか?」

 コツンと足に何かが当たり、傍にあったコンソールと思しき所に手をついてしまった。

 視線を降ろしたが、何かがそこに転がっているとしかわからない。

 しかも何やらさっきから通信状況が悪い。

 いやはや、参ったね。

 ぐっと目を細め、必死に視界の回復に努め、まずは足元の何かを確認する。

 くすんだ、白。

 この、色は……

「――ッ! 骨、か!?」

 飛びのいたとき小指が何かに触れたようだ。

 突然室内に鳴り響くジェネレーターの音。

 その音の発生源である背後に目をやると、何やら青い? 

 ……

 目が、それを認識したとき俺は反射的に銃を構えていた。





第十六話へ戻る

第十八話へ進む



SS 選択へ戻る

TOPへ戻る