一旦自室に戻ると、とにもかくにも戦術を練る事にする。

「……いきなりガバーっと行けばまず間違いなくバキューンだな。口説く……のは駄目だ。俺が言っても冗談にしか取られん」

 となると、他になんか考えないといかんでな。まずい。そういえば俺まともにボキャブラリーが少ないぜ。

 どうしたもんか。

 今度、貴女と桜を見に行きたい。二人で……うわ、あの馬鹿っぽい。却下。 

 まりもさん、このベッドなんかいいですね。ちょっとねっ転がっていいっすか? ……ふふ。いいんですよ。まりもさんも一緒に……いやこれはありえないだ ろ。

 少し落ち着け、俺。 

 その後数分間まりもさん攻略法を練るも、それらのプランは殆ど最終的には鉄拳制裁で戦闘不能になるヴィジョンしか見えてこない。

 これは多分ハイヴ攻略よりも難しいんじゃないか?

 ええぃ。誰か恋のG弾を持ってきてくれ。

 ん……? 恋の、G弾……

「それだぁぁぁ!」

 俺、天才かも知れんぞ!

 俺は恋のG弾を手に入れるため、部屋を後にした。



 Mission 1 ・ラテンの風を感じて。

「馬鹿だなー。女なんつーのはこう抱き寄せてブチューといっちまえば“あ、駄目よこんな所で……”ってなるもんさ」

「お前はそれで上手くいった事あったのか?」

 少し間があってエディは笑顔で言ってくる。

「ああ。18回やって18回とも射殺されそうになった」

「すまん。お前に聞いた俺が馬鹿だった」

 さめざめと俺達は泣いた。

 しくじった。しょっぱなからコイツのとこに来るべきじゃなかったかもしれん。 



 Mission 2 ・12の試練。

「ヌフンッ! ヌフンッ! さぁ! もっと自分の未来をイメージしてトレーニングするんだッ!」

「フッ! フッ! いや、俺達は話を聞きたいだけなんだが」

「シャッ! シャッ! と、言いつつしっかりやってやる兄弟に愛を感じるぜ!」

 何故かスクワット大会。

「駄目だッ! 笑顔が足りない! もっと爽やかに! かつもっとスマイリーに!」

 白い歯を輝かせながら俺たち三人はスクワットを続ける。

 駄目だ。勝利条件が見えてこねぇ。

「この後は腕立て、腹筋、背筋、あとは有酸素運動中心で行くぞ! さぁ、後1000本!」

 意味がわかんねぇよ。



 Mission 3 ・インディアンズソウル

「んー、貰って嬉しい……あ! 食べ物は嬉しいと思うぞ!」

 ぱぁぁと顔を輝かせるヴィー。

 うん。コイツに一般的な女性の趣向を聞くべきではなかったな。

「あ、でも酢が入ってるのは駄目だ。酸っぱいから」

 ……いつの間にか自分の欲しい物になってるし。

 誰だ。コイツに聞こうなんて考えた奴は。

「オイオイ! 普通のレディは食い物じゃ、喜ば、な……い」

 ヴィーの顔から笑顔が消えそうになった瞬間、俺とアーノルドは逃走する!

「しまった! エディが捕まった!?」

「ケヴィン! 振り向いちゃ駄目だ! 引き込まれるぞ!!」

「た、助け」ガスガスガスガスガスガスガスガスガス



 Mission 4 ・金色のアイツ

 目当ての人物はPXにいた。

 紅茶を飲んでくつろぐそいつに事の次第を伝えたら、真剣に考えてくれている。

「……うーん。難しいわね」

 髪を指で弄りながらエリーは難しい顔をした。

 それもそうか。まりもさんの事を良く知ってるわけじゃないしな。

 本来なら最初からコイツに聞けばよかったんだが、俺がこいつの部屋に行ったときは既に自室にいなかったんだよ。

 そのせいで一人の犠牲を出してしまう結果となったのが悔やまれる。スマン、エディ。

「月並みかもしれないけどやっぱり言葉が一番じゃないかしら?」

「そうなんだろうけど、俺の人柄を知ってるからなぁ……冗談と取られる確立が高いんだよ」

 その返答を聞いて、エリーは不思議そうな顔をする。

「それなら自分がどれだけ真剣かを伝えればいいじゃない」

「それが出来れば苦労しないっての。冗談でしょ? なんて言われたら“エヘッ、うっそでーす!”としかいえなくなっちまうんだよ」

 難儀な性格だ。真面目な空気に耐えられない症候群とでも言うべきか。

 再び思案し始めるエリー。

「そもそも一日でそこまで行こうと思うからいけないのよ。落ち着いてゆっくり進むしかないんじゃない?」

 確かに。今そこまで急ぐ必要はない、のか?

 それならなんとかいけそうな気がする。

「そうね……プレゼント貰えるのは幾つになっても嬉しいものよ」

 プレゼントか。しかし、随分抽象的だな。

 せめてもう少しヒントが欲しい。何を貰ったら嬉しいとか……

 そう言おうとした気持ちを読んだのか、エリーは苦笑しながら俺にこう言った。

「これ以上は私からはなんとも。……関係ないけど隊長の所には行った?」

「いや、あんな女心の欠片もわからんオッサンには」
 
「そんな事ないわ。隊長は紳士的な方よ?」

 ぐあ、信じられん。あのオッサンが紳士的とは。

 でも、目は嘘だって言ってないんだよな。

 ……はぁ、行ってみ

「あらあら、大尉! なんだい!? また皮むき」

 アーノルドを身代わりにして俺はPXから逃げ出した。



 Mission 5 ・ジェントルアタック

 で、本当に聞きに来る俺も凄いよな。

 まぁ、エリーが嘘を言うはずはない。と思いたい。それはもう全力で。

 しかし、この沈黙はどうしたものか……

「……何だ?」

 ええい。声を出すたびに人を威圧するんじゃねぇ。

 なんかよくわからん本読みやがって。

「あー、いや。隊長は紳士的だとエリーが言っていたので、その紳士テクニックを俺に御教授していただけないかなと」

 なるべく下から頼み込む。

 あくまでも無言で本のページを捲るオッサン。

 もしやアレは何か女の心を掴む呪法の本なんじゃなかろうか?

「……紳士云々は関係ない。女性を大切にすることは至極当然な事だ」

 思わず弾丸をこめかみに撃ち込まれたような気分になった。

 っていうかこのオッサンの口からそんな特殊な台詞が生えてくるとは思わなんだ。

「……不思議そうな顔をするな。女性は命を生み出すことができる。それは男には到底できんことだ」

 つまり、子供を産める女を大切にして何がおかしい! っていう理論らしい。

 なんだ、紳士的でもなければなんでも無いじゃないか。

 本をパタンと閉じてオッサンは続ける。

「男は足掻いたところで聖母にはなれん。だからこそ男は率先して身体を張らねばならんのだ」

 なんか良くわからないがいつの間にか男論に発展している。

 これは良くない。

「あ、あー……そういえば隊長は奥さんへのプロポーズはどうだったんですか?」

 戦況を変える為に急遽違う話題で勝負する。

  が、コレはどうやら最強の地雷だったみてぇだな……

「……妻は素晴らしい女だ。あれに指輪を渡してやった時の表情を、今も忘れたことは無い」

 おいおいおい! おっさん何優しげな表情で語ってやがんのさ!

 ……ん? 指輪……指輪か!!

「サンキューオッサン!」

 思わず隊長だとかそういうのをすっ飛ばして礼を言うと、俺は部屋を飛び出した。



 Mission 6 ・Hide-and-seek

 自室に戻ってきた俺は、先ず真っ先に服を着替えた。

 こんなよれた軍服じゃあ俺の魅力も半減しちまうからな!

 次に俺はごそごそと机を物色する。
 
「あー、と。確か、ここだったと思うんだがなぁ」
 
 確か昔……  から貰ったアレがあったはずだ。

 うん。なんつーか、まりもさんに持っててもらいたい、よな。

 へへ。なんだ、ちょっと照れるでな。

 それを私服のポケットに押し込むと、俺は喜び勇んで自室を飛び出した。

 うーん。まりもさんどんな顔するかね?

「とと……髪もちゃんとなんとかしてった方がいいよな。それに服もこう、しっかりと……」

 やべ、ワクワクしてきたぞ! オイ!


 
 Mission 7 ・微笑を俺に

 まりもさんの部屋のドアをノックする。

 途中、廊下を通りがかった女性がギョッとした顔を見せるが気にしない。

「誰だ?」

 うぐ、少し機嫌が悪そうな声だぜ。

 兎にも角にも腹をくくる。

「休んでいるところすまない。俺だ」

 返事が中々返ってこないのに少しまごまごしてしまう俺。

 くそ、こんなに緊張するモンなのか……

 心臓がから血液が突撃銃みたいに送り出されているのがわかる。
 
 口が渇いて少し膝が笑う。ええい、ままよ!

「……何か御用ですかケヴィン大尉。申し訳ありませんが今手がはな……せ……」 

 言葉を失うまりもさん。

 フフフ……無理もない。かなり気合入れたからな――

 そっぽを向いたまりもさんによって俺はぐい、と部屋の中に引っ張り込まれた。

 おいおい、なんか前にもこんな事があったような気が……

 先手を打って俺から声をかける。

「まりもさん、今日は話したいことがあって来たんだ」

 ふるふる震えるまりもさんの肩に手を置く。

 ビクッとかなり大げさな反応が帰ってきた。

 ついに、まりもさんも俺の魅力に気付いちまったか……罪な男だぜ、俺。

「……と、とりあえず……上着を、脱ぎ、ぬぎなさい……」

 こ、こいつぁ驚いた。まさかまりもさんの方から俺に仕掛けてくるなんて!

 これは男として引き下がる訳にはいかん。

 おもむろにベルトに手をかけるとカチャカチャ音をたててベルトを外しにかかった。

「な!? ケヴィン、あなた何やって……っ!!」

 俺の顔を見て、ぷぅっと頬が膨らむ。

 なんだ、この流れは?

「……も、もう駄目。限界っ!」

 まりもさんはその場にへたり込んで、堰をきったように笑い始めた。

「な、なんで笑うんだーー!?」



 単純な話だった。凄い久し振りに着た私服は、虫食いによって変な穴が開いていたらしい。

 何故らしい、のかと言うと……その穴はやけに可愛いアップリケによって塞がれていたのだ。

 そういえば何ヶ月か前に……エリーの奴がなんかやっててその時に差し出した気がするな。

 そしてどうやらヘアスタイルが更なる笑いを呼び込んでしまったらしい。

 くっ、紳士をイメージしたこのノーブルヘアが失敗だったか……

 思わず膝をつきたくなってしまうのを必死に堪えて一言。

「まりもさん……ちょっと待っててください」 

 勢いよくドアを開け、自室に飛び込み、いつも着ている皺のよった軍服を着て、さらにシャワーへ走る。

 急げ、急げ急げ!! まりもさんは寝るのが早い!(恐らく)

 シャワールームに入ると同時に服を脱ぎ捨てて個室に突入する。

 キュッとレバーを捻った途端シャワーから飛び出してきたのは水!

「フオオオオォォォォォ……!!」

 呼吸停止! 脈停止! が、徐々に水がお湯に変わっていく。

「……ォォォォオオオオ!!」

 脈復活! 呼吸復活!!

 それと同時に思い切り髪を洗う。もっと洗う、更に洗う!!

 個室を飛び出してタオルがない事に気付くも、すぐ脇に安置されていた誰かの着替えで脱水、そして軍服装着。

「う、うわぁぁぁ! こ、この私の……高貴な平服がぁぁぁぁぁ!!」

 聞いたことのある悲鳴を聞きつつもダッシュでシャワールームを抜け出す。

 階段を転げ落ちながら、俺はまたまりもさんの部屋に戻ってきた。

 ゼッ、ゼッと呼吸が荒くなっているが、問題ない。

 ドアをノックすると、今度は返事よりも先にドアが開いた。

「……はぁ、ふぅ……まりもさん、眠そうっすね……」

「……普段、もうじき寝る時間だから、ね」

 ああ、でも、そんな貴女の姿も素敵だ。嫁に来てください。

 ――おっと、いかん。

 今日の俺はジェントルだ。紳士なんだッ!

 だから少しはだけたYシャツ見ても大丈夫! 潤んだ目を見ても大丈夫! こう、プリっとした唇を見ても大丈夫!!

「あ、あはは……その、あーと。あの、アレはですね。なんつーか、あー、夢見が悪いというか、アーノルドに囲まれてる夢を見たというか、はい」

 ぼんやりと俺の言い訳を聞いていくれているまりもさん。

 ああん。そんなとろんとした目で見ないでくれ。鋼の決意がくじけそうだ。

「それで、ですね? うん。お詫び……と言っちゃァなんなんですが……」

 そう言って俺は軍服のポケットに手を突っ込んでそれを勢い良く取り出す。

「……ん……う、うん……」 

 少しはにかんだまりもさんだったが、俺を衝撃が襲っていた。

 手の中にある感触は、明らかに銀製品の感触ではない。

 言うなれば、少し硬いビニールのブツ!

 俺がいつまでたっても手を開けないもんだから、勘違いしたのかまりもさんはおずおずと俺の手の下に手を持ってきた。

 テ、テレ顔のまりもさんだとッ!? そ、そんな事があっていいのか!? 否、イイ!!

 ああ。Goddess。これが幸せなんだね? どうせならついでにこの手の中のブツをなんとかしてください。

 まりもさんは少し上目遣いで俺の顔を見てから目を閉じる。

 逆転のチャンスはここしかない!

 素早く俺は手の中のソレを上に放り投げると、私服のポケットに突っ込まれたそれを抜き取って、そっとまりもさんの手のひらに乗せる。

 ゆっくり、目を開けたまりもさんの顔がぱぁっと明るくなった。

 手の平に乗ってるのは指輪。つってもそんな立派な物じゃない。

 昔俺が暇つぶしにキコキコ作ってたもんだ。ま、指先は昔から器用だったからな。そこそこ見れるはず。

「……あ、ありがとう……」

 それをじっと見つめるまりもさん。この流れなら、言える!

「ま、まりもさん! 俺、まりもさんの事が」                    トサッ



 ――俺の中の時が止まった。

 キョトンとした顔で頭の上に乗っかったそれを取ると、それを目の前にぶら下げ、じーっとそれを見つめる。

 唐突にそれが何か理解したのだろう。じょじょにその顔が赤くなっていって、その眼力をもって俺を射殺す。

 そして、全身からあふれ出る気迫――!!

 逃げなければ。俺の脳が警鐘を鳴らしたとき、既に全てが遅かった。



「お、女を……甘くみるなぁッ!!」



 殴られてぐしゃ、と壁に叩きつけられる。と、同時にバンと閉まる扉。

 

 あー、俺さー。

 多分こうなるかなーなんて思ってたんだけどさー。

 さすがに拗ねたくなって来たぜ……

 よっこいしょと俺が立ち上がろうとすると、廊下だけではなく、基地全体に鳴り響く警報。

「畜生、なんだってこんな時に!」

 よろ、とよろめきながら俺は待機所へと向かった。





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