――20時24分 第三チェックポイント近辺――


 榊ペアの協力があれば俺たちの出る幕はないんだが……今の奴らに助力を乞うならさすがに死を覚悟せにゃならん。

 そんな事であの二人組みに助力を仰ぐのは危険と判断した俺は頭の中で策略を練った。

 結果、俺達が先行して人質を救出し一度離脱。そのすぐ後、御剣ペアがアーノルドに一撃を加えて離脱する。という算段だ。

 肉弾戦で奴にダメージを与えられるかがキモになるんだが……奴に肉弾戦が通用するかは不明だ。
 
 そこは……気合で行ってもらうしかねぇ。ビバ、根性論。

「御剣、涼宮、いいか? まず俺達が珠瀬と鎧衣を助けに行く。俺達が二人の所に到達したらお前たちはここから出てあの筋肉に飛び掛れ」

 さっくり説明する。

 露骨に嫌そうな顔をする二人。

「いいか? 俺らのコンビよっか二人のが攻撃力はあるだろう。あいつの性能的に二発目はない……一撃で決める為にはお前達が適任なんだ」

 もっともらしい理屈を述べてはいるが究極的に言えば“汗臭そうだからいやだ”っていう理由なんだが。

 っていうか、珠瀬とかほっといても大丈夫な気がしないでもないんだが

【お願いします! F-14なら……間に合うはずです!】

 ずきん、と左胸が痛む。

 あー、過去を吹っ切れない後ろ向きな俺。

 情けねぇ。

 少し後ろ向きになった俺のジャケットの襟を何かががっしと掴む。

 全身から噴き出す嫌な汗。

「……捕まえた」

 少し身じろぎして何者かの手を外そうと試みるも失敗。

 何者かの殺意をひしひしと感じる。

 まぁ、今の段階で俺に殺意をぶつけてくるのは二人ぐらいしかいないんだが。

「……落ち着け彩峰。今はそれどころじゃない」

 冷静に、努めて真面目にそう言ってのける。

 俺は“役者になれるんじゃないか?”とかそんな事を頭の隅で考えていた。

「……わかってます。今は三人を救出するほうが重要ですから」

 いつの間にかオーガ榊からノーマル榊に戻っている気がした。

 そーっと後ろを振り返ると

「ダイジョウブデス。ワタシハレイセイデスカラ」

「……アトデチマツリ」

 オーガとジャガーはばっちり健在。

 俺、これが終わったら命がないかもしれんね。



 急遽戦術の変更を決定する。

 っていっても、アーノルドを攻撃するのに榊ペアに協力してもらうだけなんだが。

 攻撃の順番は御剣が先制して顔面に一撃、涼宮が足を狙って、榊はを援護しつつ、彩峰の一撃でトドメ。という感じで行くのがベストだろう。

 まぁ、攻撃陣はある程度榊に一任して平気かな?

 懸念していた俺への攻撃も心配なさそうだ。

 あとは、タイミングを見計らって行くだけだ……

 そのタイミングがまた微妙に難しいんだが。

 突然スクワットをしていたアーノルドが動きを止めた。

 何やらポージングをして築地にゆっくり迫っていく。 

 ――今だ! タイミングはここしかねぇ!

「行くぞ! 今っきゃねぇ!」 

 言うが早いか俺と柏木は草陰から飛び出す!

 こういうときにしっかり連携を図ってくれる柏木に感謝だな。

 低い姿勢で飛び出した俺達はぐったりしてる鎧衣達の元に駆け寄る。

 アーノルドの野郎が気付いたのか、ゆっくりとこっちに振り返る……!

 俺は手を思い切り伸ばして土を掬い上げ、それをアーノルドの顔面に叩きつける!

「ア、アフォァァァァ! 目が、目がぁぁぁぁ!!」

 奴め、怯んだな! 

 俺は珠瀬を、柏木は鎧衣を担ぎ上げて、未だにスクワットを続ける築地を逃がす。

「ふ、ふふ……俺の視界を奪ったところ『御免!』ブ『足もとぉッ!』クオィ『彩峰!』な『……成敗』ゲファッ」

 若干汗をかいてテラテラしていた身体がずずぅんと倒れこむ。

 暫し遠巻きに見て……俺は小石を投げつけてみた。

 ぴくりとも動かない。

「……ミッションコンプリート。か? さしもの筋肉達磨も耐えられんだろう」

 多分。

 珠瀬、鎧衣をひとまず築地に預け、俺達は倒れこんだアーノルドにゆっくり近づいていく。

 アーノルド到達まであと10cm程に達したとき、俺の鼻腔をそれが貫く。

「く……くせぇ……」

 喩えるなら栗の花。もしくは合成鯖の味噌煮がすこし腐ったような、遠回りに言おうがどう言おうが……



  臭   い 



 何食ってやがるんだこの野郎!

 ばっと、他の面々を見回すと、明らかに俺を凝視している。

 視線は“教官、お願いします”と言っているのを俺は察してしまった。

 柏木は――

 い、いかん! 臭いにやられて僅かにあっちに逝ってやがる!

 このままじゃ柏木が……時間がねぇ!

 俺は覚悟を決めて、うつ伏せにぶっ倒れているアーノルドをひっくり返した。

 なんで、コイツは昏倒させられたのにこんな笑顔なんだ…… 

 まぁ、いいや。とっととお宝を……うげぇ、ヌメヌメしやがる。お宝、お宝……あれ?

「教官、その、ありましたか?」

 恐る恐る御剣が聞いてくる。

「いあ、おかひいら……コイツが持ってるはずなんだが」

 途中から鼻をつまんでいた指を離して捜索に専念するが、一向にそれは見つからない。

 まぁ、紙っぺらだから探し辛いといえば探し辛いが……

「……教官。もしかして、それじゃ、ないですよね?」

 言うな、涼宮。

 俺はアーノルドのパンツから僅かに出ている紙の端っこをみて、思わず泣きたくなった。

 しかし、年頃の娘っ子達にコレを取らせる訳にもいかない。

 俺は意を決してそれに手を伸ばした。



 ――20時54分 最終チェックポイント・校舎内――



「うう、しんなりしてるー……」

 泣くな柏木。命があるだけマシだと思え。

 むしろ命がある俺を褒めてやりたい。

 あの後キッチリと榊ペアにボコボコにされた俺は今、若干ふらつきながらも柏木と共に最終チェックポイントへの階段を昇っている。

 ここでバッチリ最下位になっているが、まぁ、最後の関門は凄いからな。多分まだ大丈夫。

 屋上の戸を開けようとしたとき、ズン、と凄い音が聞こえた。

 後から怒声が聞こえてくる。

 う、ヤバイな。最高にブチ切れてやがる。

「きょーかん……大丈夫なんですか?」

 そんな不安そうな目で見ないでくれ。

 正直俺も不安で仕方ない。

「ここからは音を立てないようにいくぞ?」

 こくりと頷いたのを見て、ゆっくり、じっくりと階段を上がる。

『あああーーーーー! ツマンナイぞーーーーー!』

 人の気も知らんと、勝手な事を……

 ジャケットの中にある秘密兵器の確認をする。

 個数は……二個か。

 一発はミスってもなんとか行けるな。

 ま、一回で決まるに越した事はないが。

 ぎぎ、と屋上の扉を開ける。

 そこには、倒れた御剣達に毛布をかけてやっているヴィーの姿があった。

 見敵必殺。

 俺はぐいと柏木の腰を抱き寄せ、ヴィーに向かって駆け出す!
  
 日頃の恨み、思い知れ!

「飛ぶぞ、柏木!」

 大地を蹴って、今大空へ舞い上がる!

 俺の足が、ヴィーの後頭部を狙い、吸い込まれるように進んでいく。

 ぎゅるっとその場で回転し、キレイな後ろ回し蹴りで俺は撃墜された。

 地面を滑る音が聞こえるところから、柏木も俺に引っ張られてダウンしている。

 やばい、と思ったときにはもう遅かった。

 ヴィーが満面の笑みで、俺に飛び掛ってくるのが見える。

 やべぇ、右が――



 ――20時59分 柏木晴子――



 あいたたた……きょーかん、もう少し私に優しくてもいいんじゃないんですかー。とか言おうと思った私の目に、衝撃の光景が飛び込んできた。

 飛び掛った女の人(子?)が右のストレートをきょーかんの顔面に叩き込んだかと思うとそのままマウントを奪い、連続で拳を叩き込む!

 しかも、なんでこの人こんなに笑顔なの!?

「あははははははは!! オラ、ケヴィン! 早くなんかしないと死んじゃうぞ!」
 ガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガス

 ほ、ホントに死んじゃうって!

 ビクン、ビクンと震えるきょーかんの姿は……私を恐怖で縛るのに十分な効果を発揮した。

 くるっと女性がこっちを向く。急いで私は死んだフリをしてその脅威をやり過ごす。

 んー、と考えるような声を出すと

「なぁ、お前意識あるかー?」

 なんて聞いてくる。勿論私は気を失ってるから無言を貫き通した。  

「なんだ、ツマランなー。おーい、ケヴィンー。起きろー」
 バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ
 
 こんどはきょーかんに連続でビンタをして、どうやら起こそうとしてるらしいけど……

 あれじゃぁ逆に意識が遠のくって……

 心の中で私はきょーかんに手を合わせると、死んだフリを続行することにした。




 ――20時23分 第二チェックポイント――




 御剣・涼宮ペア――サカジャヴィア・バディオ中尉によって作戦続行不可能状態に?

 榊・彩峰ペア――同上?

 ケヴィン・柏木ペア――ケヴィン=戦闘不能  柏木=死んだフリ中。






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