「If I have wounded any soul today」

  ……お、始まったか。

「If I have caused one foot to go astray」

 ――これは移動の時、オッサンやらエリーやらが良くやる。まぁ所謂聖歌斉唱? だ。 

「If I have walked in my own willful way」

 驚くなかれ。オッサン、エリー、アーノルドならまだしも……

「Dear Lord, forgive.」

 ヴィーにエディまで歌い始めるから不思議だ。

 やっぱ聖歌にはなんか特殊な力が宿ってんのかもしれない。

「If I have uttered idle words or vain」

 ――俺は絶対に歌わない。

 なんせこの世の中で俺ほどにカミサマを信じてない人間はいないだろうって言うくらい俺は不信心だからなぁ。

「If I have turned aside from want or pain
 Lest I myself shall suffer through the strain
 Dear Lord, forgive.
 If I have been perverse or hard, or cold
 If I have longed for shelter in Thy fold
 When Thou hast given me some fort to hold
 Dear Lord, forgive.
 Forgive the sins I have confessed to Thee
 Forgive the secret sins I do not see
 O guide me, love me and my keeper be」

 聖歌ももう最後の一節を残すのみ、か。

 できればちゃっちゃと終えちゃってくれ。そうじゃないと尻がむず痒くてしょうがない。

「Dear Lord, Amen」

  アーメン、と他の面々が続く。とりあえず形だけ俺も続いて言っておく。

 ――しかし、なんだ。嫌な予感がどうにも晴れない。

 俺はぶんぶんと頭を振ってソレを吹っ切った。

 大丈夫。俺には何より――勝利の女神がついてるんだ。とりあえず死ぬ事はない……と、思いたい。

『もうじき新潟の県境に着きますんで、準備の方お願いします』

 トラックのドライバーが放ったその一言で、俺達は立ち上がる。

 強化装備の準備も当然出来ている。

 とりあえずアンプルの中身を注射器で吸い上げて静脈に注射。

 うぉー……脳が透明になるぅー……

「……大丈夫か? なんか顔色危ないぞ?」

 ……いや、これはちょっと危ないかもしれん。と言うよりアーノルド、良く気付いてくれた。

「あ、あ。ちっと、薬が、変な方に、入ったかもしれん」

 今までも極稀にこういう事があったんだが……そこは誤魔化し誤魔化しなんとかやってきてたはずだった。

 だが、今日のは正直いつもよりまずい気がする。

 おおぃ。くわんくわんするぞ……ッ!?

 頬に激痛が走る。口の中に渋い鉄錆の味が広がっていって俺の脳はようやく覚醒してくれた。

「目が覚めたか?」

「……ええ。おかげさんで目は覚めましたよ。口ン中グチャグチャになりましたがね」

 ――本当にこのオッサンはイイ奴だ。いつか絶対ぶん殴ってやる。

 各々がトラックを降りて後方から来たキャリアーに走っていく。

 俺も口の中の血を吐き捨てて自機の元に走った。 

 不思議なことに、オッサンに殴られてからあの嫌な予感が吹っ切れていた。



 ************************



『マンバ1よりヴァルキリー1。これより捕獲作戦を開始する。準備はいいな?』

『ヴァルキリー1了解。こちらの準備も全て整っています』

『マンバ1了解。これより作戦行動に移る。マンバ隊各機、スクウェア2で行くぞ。遅れるな』

  各々特殊なカラーリングが施された六機のF-15が風を切って飛ぶ。その後ろからは八機の不知火が続く。

 その光景は戦に赴く騎士の如く……なんてな。へっ、言ってみたかっただけだっつぅの。

 ――それから、どれだけの時間が経ったのかは良く覚えちゃいないんだが。

 ようやっと俺達は作戦の第一段階へと進んだ。進んだわけだが……

「……おー、まーきばーはーべぇーたー。ウゾウゾ一杯なめんな一杯……っと」

 佐渡島から上陸してきたと思しき無数のBETAを見て、若干、いや、物凄い勢いでやる気がそがれていく。

『……ケヴィン。お前何匹まで数えた?』

 そう問いかけてきたのは他でもない。エディだ。

「あー……二十数えたあたりで飽きた」

 そう言うと間を空けずにエディが誇らしげに

『ふはは。俺様は大小あわせて百二十五までは数えたぜ』

 そんなくだらない自慢をしてくる。

「言ってろ、数字マニアめ」

 作戦前の僅かな間。その間に俺達は軽口を叩いた。

 ――OK。大分調子は良さそうだ。俺にしては珍しく。

『――軽口を叩くな。マンバ2、マンバ4。30秒後に作戦行動に移る各員合わせ』

 ……準備を開始する。

 っつっても、殆ど何もしないんだが。

 しかし……アレだ。本当にうっとおしいほどの数。

 あの中から一匹フン捕まえろっていうのは結構しんどいんでないか?

 と、もう時間がない、か。

 ――3、2、1……

『マンバ隊、ヴァルキリー小隊、行くぞ!!』

 一斉に、戦術機が飛ぶ。

「っしゃあ!! 一暴れといきますか!!」

 一瞬でトップスピードまで登りつめると、一気に弾をばら撒く。

 途端にBETAの群れが体液で紫色に染まった。

『マンバ2! 重光線級4時の方向!!』

「了解!! クソッタレの睫毛野郎共め。黙らせてやる!!」

『マンバ3、マンバ4! マンバ2の援護に回れ!!』

 たすきペイントのF-15が左翼、トップレスねーちゃんエンブレムのF-15が右翼に付く。

 サポートがあるなら心強い。

『マンバ3! フォックス1!!』

 機体を僅かに左に修正して射線を広く取らせると、BETAの一部が吹っ飛ぶ。

『マンバ4! フォックス2!!』

 ほぼ同時にマンバ4の滑空砲が叩き込まれ、僅かなスペースが生まれた。

 俺は機体を滑り込ませるようにそのスペースに突っ込んで、突撃銃を振り上げる。

「マンバ2!! フォックス3!!」



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