……あー。朝、だな。うん。朝。

 腹時計の感じからして恐らく四時〜五時の間ってトコだろう。

 ちらっと隣を見ると……すやすやと寝息をたてているまりもさんがいる。

 ……あー……うん。ちょっと。一回くらいこう、ブチューっていっても罰当たんないよな?

 昨日あれだけその、ふにゃふにゃした訳だし? うん。

 そっと顔を近づけるとまりもさんの息吹を感じた。

 うお、コレは精神衛生的によろしくない。

 なんていうか……俺の中の暴れん坊が大爆発しちまいそうだ。

 ごほん、じゃあ、早速頂きます。ごっつあんです。

 んむーーーーーーーーーーーーっ……

「……ぅんっ……ケヴィン? どうしたの?」

 ……マイガッ!

 朝っぱらから殺される!? いや、折角添い遂げたのにそりゃないぜ!

 そんな俺の心配を他所にまりもさんはぽっと頬を染めてそっぽを向く。

「……あの、恥ずかしい、んだけど……」

 ……あ、駄目。無理。頂きます。

「んっ……」

 抱き寄せてキス。数時間前となんら変わらない温もりが俺の唇に伝わってくる。

 暫くそのまま。まりもさんの息遣いを感じる。口を離してまりもさんの顔を正面からじっと見てみた。

 少し、顔が赤い。いや、多分俺のがすごい顔になってるに違いない。いや、間違いない。うん。

「……ドキドキ、してるのね」

「いや、そりゃあ夢の中にいるみたいだしさ……っていうかこんなばっくんばっくんした事なんて多分まりもさん関連だけだぜ?」

 それを聞いたまりもさんは俯いてしまった。うわ、凄ぇテレてる……

 あー、もう! なんでこんなに可愛いんですかあんたは!

 罰として接吻爆撃。頭といわずデコといわずもう雨霰。

「ちょ、ちょっと……くすぐったい……」

 ちゅっちゅっちゅー。 

「待ってってば……」

 いや、待たないぞ。今まで散々待たされ(?)たんだからな。ちゅっちゅっちゅーーー。

「待ちなさいって言ってるでしょっ!」

「はぶんっ!? ま、枕は反則、OKごめんなさい。もうちょっと我慢しますからその銃をしまってください」

 胸を隠しながらでも拳銃を決して戻さない貴女にまた惚れてしまいそうですまりもさん。

「……その、着替えるから……向こう、向いててくれない?」

「……昨日あんだけ見たんだから大丈……はい。後ろ向いてます」

 女って、なんか色々複雑なんだなぁ。いや、そこが凄くいいんだけどな。

「……総合演習前だって言うのに……駄目ね、気の緩みかしら……」

 しゅる、しゅる、という衣擦れの音と一緒にそんな声が聞こえてくる。 

 気の緩みだなんて……俺ショック!

「……終わったわよ? はい。これ」

 振り返ると同時に俺の顔に降りかかる臭い服。うん。間違いなくこの男臭は俺の服だネ。

 ……なんか一瞬でロマンティーな雰囲気が吹っ飛んじまったなぁオイ。

「……あ、まりもさん。どうせなら着替えンの見る?」

 ――いや、そんな真っ赤になられると……その、俺も照れるんだけど?

 ……こ、ここは何か面白いこと言わねぇといけないような気がしてきたぞ……

 あ、あーっと……なんだ!? 俺の脳味噌の中にこういう時のためのとっておきとかそういうのはないのか!?

 えーと、隣の家が撃震を買ったんだってね? へー、げっきしーん。

 いや、笑いどころもなんもねぇぞ! 落ち着け俺。こ、ここはもう、一撃に賭ける!!

「ま、まりもさん」

 まりもさんがちら、とこっちに目を向けた。今だ。今しかない!!

「ビーチク」

 お守りの指輪を外し、ソレをおもむろに乳輪に添えてケヴィンスマイル。

 ……まずった。凄い気まずい。しかも明らかにまりもさんが引いてる。

「え、えーと……と、飛びビーチク……」

 指輪を遠ざけてまたニコッと笑う。

 ……いや、そんな、哀れんだ目で俺を見ないで……?



  ************************



「ウッス。ケヴィン・ウォーケン・黒澤大尉帰投しました……あんまいい予感がしないのは何でっすか?」

 さっきまでまりもさんとチークタイム真っ盛りだったはずなのによりにもよって館内放送で呼ばれた俺。

 隊長室には無論オッサンと隊の面々、それに……

「まぁ、大抵私がいる時はあんたにすればいい予感なんてしないでしょうね」

 そう言いながらあの不敵な笑みを浮かべる夕呼さんの姿があった。

「うぁー……嫌な予感はしてたんすよ? もうビンビンに」

 しかしそれにしても、だ。うん。いつも以上に嫌な予感がするんですが。

「そう。なら丁度いいわ。今日この時点をもってあんたは原隊復帰。すぐに新潟に向かってもらうわ」

 新潟……って、随分遠くない? しかもなんでこのタイミングで?

 いや、ねぇ? まりもさんが恋しいとかそういうんじゃないよ? いや、恋しいけどさ?

「要点を纏めて言う。我が隊に課せられた次の指令はBETAの捕獲だ」

「いや、捕獲ってアンタ、簡単に言うけどよ? まさかハイヴにでも突っ込むかい?」

「バカねぇ。優秀な手駒をそんな簡単に手放す訳がないでしょ?」

 ……うぉい。この場でそういうこと言うなよぅ。

 俺以外の面々も同じようなことを考えてるんだろう。いや、訂正。うつらうつらしてるヴィー以外は。

「先程新潟にBETAが上陸したという報告があった。我々は伊隅小隊と共にこの任に当たる。尚、我らのバックアップには帝国空軍小松基地所属第六航空団と 共に富士戦術教導隊も加わる」

 ……おいおい。随分と豪勢な顔ぶれじゃないの。

 正直またしょっっっっぼい面子で戦えとでも言われると思ったぜ。

 それにしても……ミッチーの小隊か。まぁ、結構な修羅場を潜って来たみたいだし。――大丈夫だろう。

 ……拭えない不安? おいおい、勘弁してくれ。軽ーいお使いみたいなもんだよな。

 うん。そう思おう。

 しかし、うーん。なんだ。

「……なぁ。エディ。お前に一体何があった?」

「OK兄弟。何も聞かないでくれ」

 真っ赤に腫れた頬を抑えるエディを見ていて、俺はいつの間にかその不安を忘れていた。





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