……まぁ、俺の人生ってーのは色々と驚くことが多い。

 例えば武器格闘であの御剣と互角に渡り合う新人を見たり。

 例えばその新人が狙撃技術においてあの珠瀬のド肝を抜いたり。

 ま、とにかく全ての技能・知識等が訓練兵のソレじゃない。

 まるで何年間も戦場にいたかのような雰囲気すらあるソイツだが……

「なんか……気にくわねぇ」

 個人的にはなんか好かねぇんだよな。

 いや、どう説明していいのかわからんのだがなんていうか……生理的に合わないというか?

 上手く言えないがまぁ、そういう感じと、それにもう一つ。

まぁ、これはなんていうか……娘を嫁に出す父親の心境というか。

 いや、そんな個人的な感情なんかを抜きにしてもアレだな。

 こう、多分俺と奴は前世でそうとうな因縁があったと見た。

 女神まりーもを巡るケヴィヌとタケール。

 最終的には相打ちとか。おいおいおい、相打ちは駄目でしょうが!

 あ、でもずたぼろになった俺を抱き起こしてくれるまりもさんっていいかも……

「教官殿。どうなさったんです?」

「うぇっ!? あ、ああ。御剣か……あんまり驚かさないでくれよ」

 う、キョトンとしやがって……いや、悪くないんだけどね?

「……しっかし、アレだな? お前が手を抜く訳もないしなぁ」

  そう言いながらマジマジと御剣の顔を見つめてみる。

 う〜ん。こう凛とした中にも女性らしさを秘めているというか、なんというか。

 まてまて、何を考えているんだ俺は……紳士たれ!

「……? 教官殿。本当に今日はどうかなさったのですか? いつも以上に心ここに在らず、といった感じですが」

「いつも以上にって……俺普段からンなに上の空か?」

 そう言って毒づく俺を見て、御剣は少しおかしそうに微笑んで

「ええ。まるで恋焦がれる乙女の顔です」

 そう、冗談を言った。

「うるせぇ。抜けた顔は生まれつきだっつの」

 俺もその冗談を冗談で返す。以外にもあの教え子たちの中で一番俺に懐いてくれているのはコイツなのかもしれない。

 いや、嬉しいんだけどよ? 勿論。正直御剣はそこいらじゃお目にかかれないような美女だし。

 でも、だからだろうな。

 コイツが惹かれている男を許せない、っていうのは多分ある。

「冥夜。神宮司軍曹が呼んでるぞ」

 噂をすれば……か。

「……ンだ糞餓鬼。俺様のユートピアに何しに来やがった? ケツにぶっといのぶち込んじゃうぞコラ」

「……別に、大尉殿に用はないんで」

 くきーーー! すかしたツラしやがって! 頭来た!

「オラ、とっとと帰ってマスかいて寝やがれ! ペッ! ペッペッペッ!!」

 俺の口から対男用のスカッドミサイルが発射される!

「うわっ汚ッ!? な、なんて事しやがる……!」

「うるせぇっ、お前なんぞにウチの娘をやれるかっ! さぁ帰れ! もしくは身包みおいてきな!」

 御剣を背後に隠すようにして俺は白銀を威嚇する!
 
 この雄姿をまりもさんにみせてやりたかった……!

「……教官殿。私は教官殿の娘でもないし、それに行かないと神宮司軍曹に迷惑をかけてしまいますから。行こうタケル」

 ……いや、わかってたのよ? 何の気なしに娘は父の手元から離れていくことぐらい。うん。

 ぽつんとユートピアに残された俺は……暫し残暑の厳しい運動場で一人呆然と佇んでいた。



 ************************



「……それで、気がついたら脱水症状を起こして倒れていた、と?」

 薄暗い部屋。

 ベッド脇の椅子に腰掛けて呆れた表情をしているまりもさんを子犬の視線で見つめる。

「しょ、しょうがなかったのっ。ボク病弱だから暑さに耐えられなかったのっ」

 超格好悪ぃ俺。

「白銀が見つけてくれてなかったらあぶなかったやも知れません」

 超格好イイ白銀。

「いえ、たまたま忘れ物をとりにもどっただけなんで」

「ご苦労だった白銀訓練兵。下がっていい」

 まりもさんの一声で白銀は医務室を出て行った……

「まったく……貴方が倒れてから結構時間はたってるけど、気をつけなさいって夕呼も言っていたでしょう?」

「なはは……スンマセン」

  穏やかな時間。ゆっくりと二人の時間が過ぎていく。

「「そういえば」」

 ふと俺とまりもさんの声が綺麗に重なった。

 なんだか照れくさいぞオイ!

「な、なはは……まりもさんからどうぞ?」

「ふふ、いいの?」

 最近まりもさんの優しげな笑顔を良く見る。

 なんかいいよなぁ。こういうの。夫婦の甘い性活っつーかなんつーか。うーん……喩えようが無いけどまぁ、そういうのだ。

「白銀の事なんだけど」

 オイ、なんだって

「ふふ、凄いわよね。殆ど何をやらせても100点なんだもの」

 やめてくれよ

「私の出番も無いくらいよ」

「……あの、さ。あんな餓鬼のどこがいいんだ?」

 やっちまった。

「いいも何も……教官として私は嬉しいわ」

「ンな事聞きたいんじゃない。そんな顔であいつの話をするのはやめてくれ」

 うわ、俺最悪だ。一から十まで最低最悪な糞野郎だ。

「……どうしたのケヴィン。貴方らしくないわ」

「いいや。これ以上ないほど俺は冷静だぜ? ……ああ、そうとも」

 ……うん。まぁ、アレだ。――嫉妬?

 正直最高にダサいのはわかっている。 

 っつーか、どうしたんだ俺は? 俺が俺でないような感覚――                                 ドクンッ

「今日は、もう休みなさい? きっと疲れてるのよ」

 立ち上がったまりもさんの手を、掴む。

「……ケヴィン?」

 不安そうな顔。俺の、モノ。

 ――いいじゃねぇか。なんつったっけ? あの女。ヤっちまえよ。どうせオマエに腕力で勝てるわけねえじゃねえか

 ああ、そうだよ。力づくでいいじゃねぇか。

 どうせ、もうこの地球は――

「――ッ! な、なはははは!! い、いやいや、まりもさん、コレつけててくれたんすね」

 ……危ねぇ。俺、今何考えてた?

 一度深呼吸をして冷静になる。よし。大丈夫だ。

「――え? ……ええ。結構、その、デザインもいいし、それに……」

 はにかみながらまりもさんは俺のプレゼントした指輪を撫でる。

「――折角貴方がくれたんだもの」

 その瞬間、俺の脳味噌がある指令を下した!

 無論俺の身体は忠実にその指令に従ってしまう。

 すっとまりもさんを引き寄せて彼女の身体を抱きしめる。

 少し小さくて、少し柔らかくて、いい匂いが――さぁ、来い! 鉄拳来い! この微妙な空気を払拭する為に! っていうかなんで後先考えずに抱きしめたん だ俺は、っていうかまりもさん結構おっきいんだねウヘヘヘヘー!

 ……おかしい。待てども待てども鉄拳は来ない。

 そーっとまりもさんを窺う。

 と、全身を疾走する電撃! まりもさんが目を閉じ、俺に身を任せちゃってるよ!

 ……どうしようもなく手が震えている。ついでに言えば心臓は多分そろそろ活動を停止するかもしれない。

 そっとまりもさんの頬に手をやる。 抵抗はない。

 ――うっしゃ。いっていいのか? いや、行く。行くぞ!

 ごくり、と唾を飲み込む。

 ゆっくり、ゆっくりとまりもさんの顔が近づいてくる。

 やっべ、まりもさんって結構まつげ長いのな。

 しかも、やっぱこう、綺麗、だし。

 ああ、もう駄目だ。

 無茶苦茶な心音を必死に抑えながら、俺は身を乗り出す。

 ――俺とまりもさんとの距離が、0になる。

 そっとまりもさんの手が、俺の手に重なった。



 ――多分、幸せってこういう事を言うんだな。

 



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